やきもの師《上》 平岩弓枝

2003年11月20日発行

 

やきもの師

20数年前に姉喜久と弟竜助は岩谷が秘蔵する古信楽の壷を見たが、その壺は戦災で焼けて灰になってしまう。竜助はそれと同じものに建武元甲戌三月日の銘を彫り込んで創作した。がこの時は重要文化財の指定を逃した。再び竜助は建武の銘がない全く同じ壺を創作した。竜助は、茶道は唐物ばかりを有難り唐物でなければならないという茶道の決まりを阿保と呼び、古いものなら国宝、重文になり、新しいものは相手にしない、古い、新しいだけが値打ちの分かれ目で、それを鑑定する人の目が節穴、そいつらの横面を引っぱたいてやるとの思いを込めていた。かつて日展に落選した経験を持つ竜助は、古信楽の壷が重要文化財に指定された時、再び罵声が聞こえた。作品に仁清真贋事件として描かれているのは、実際に起きた「永仁の壷事件」をモチーフにしたものらしい。

 

夫婦茶碗

美術院国宝修理所に勤める信三の仕事は誰にも認められないことを誇りとする地味な仕事だった。妻の三佐子はテレビドラマの原作者で華々しい仕事。そんな三佐子に、信三の同僚で年配者は、誰にも褒められることのない信三の仕事だが、たまには寂しくなってせめて女房にだけでも解って欲しい、立派な仕事していると言って貰いたい、労わって貰いたいと思う、そんな亭主の食べるものに女房の目が行き届かなくなると女房の情愛を感じられず、不安になると優しく語る。帰宅して三佐子は信三が金沢のお土産の夫婦茶碗で旨いお茶を飲む。自分の不満は贅沢な不満と口に出すと、肩の荷が軽くなった。

 

女人高野

婚前旅行をすっぽかされた亮介が女人高野、室生寺を訪れてカメラ撮影していると、そこにフィアンセの麻衣子が現れた。限りない愛がこみあげ、これからもこの愛を素直に見つめようと亮介は思った。

 

気まぐれな贅沢

エレベーターガールが大企業の会長の私設秘書に高額の報酬で半年間雇われ高価な衣服等をプレゼントされるうちに、恋人から嫉妬され、やがて会長は癌で亡くなってしまう。会長の気まぐれな贅沢に付き合っただけなのに葬儀では周囲から愛玩具として好奇の目に晒される。その中でいつしか会長を愛しかけていた自分を発見し、愛人としての涙を流す。愛を越えた女の悲しみと誇りに翳った。