タゴール 死生の詩(新版) 森本達雄編訳

2002年12月10日初版第1刷発行 2011年7月22日新版第1刷発行 

 

訳者による「『新版』に寄せて」や「あとがき」によると、アジア人として最初にノーベル賞文学賞)受賞の栄誉に輝いたタゴールシュヴァイツァーは、タゴールをインドのゲーテと呼び、“タゴールこそが「生の肯定(真理)」であるとの個人的体験を、彼以前のだれよりも深く、力強く、魅力的な手法で表現した。この完全なまでに高貴で諧和的な思想家は、[いまや]インドの国民だけではなく、人類に属している。”と書きあらわしたとのこと。

ゲーテタゴールも、有限と無限、生と死はけっして相対立し反するものではない、と考えていた。

本書第1部は、タゴールノーベル賞受賞対象作品『ギタンジャリ』から20篇が「死生を超えて」と題して選ばれている。妻、二人の子ども、父と相次いで亡くしたタゴールが悲しみのうちにも凛として死に対峙した作品である。第2部は、「人生の旅の終わりに」と題して、79歳のタゴールが80歳で逝くまでの11カ月間に残した『病床にて(抄)』『恢復期』『最後のうた』で構成されている。

気に入った箇所が沢山あり、それらの一部だけでも書き写そうとも思ったが、一部だけを抜粋しても、詩のイメージや音律を失わせてしまうので、それは適切でないと思われ、今回は気に入った箇所を書き写すのをやめた。私が最も印象深く感じたのは次の詩だ。

「生の敷居をまたいで、はじめて、この世を訪れたとき、わたしは、何も知らなかった。

 真夜中の森の一つの蕾のように、わたしを この広大な神秘の懐へと花咲かせてくれたのは どんな力であったのか!

 朝になって 光を仰ぎ見たとき、たちまち わたしは気がついた-わたしは、よそものとして この世に来たのではないことをー名もなく形もない不思議なかたがわたしの母の姿となって その腕にわたしを抱きあげてくれたことを。

 同じように、死してもまた、同じ未知なるかたが 古いなじみのように わたしの前に姿を現すことだろう。そしてわたしは、この生を愛するゆえに 死をもまた愛するだろうことを知っている。

 幼な児は、母に右の乳房から引き離されると 泣き叫ぶが、次の瞬間、左の乳房をふくませてもらって 安らぎを見い出す。」

 訳者の解説には、「生と死は、いわば人間存在の二つの顔である。・・(最後の)詩句は、こうしたタゴールの死生観のいっさいを凝縮した象徴詩人ならではのみごとな比喩である」とある。確かにそのように詠むことができる詩だと思う。

 仏教に近い思想をタゴールは抱いていたように思う。