立花隆の最終講義 東大生と語り尽くした6時間 立花隆

2021年10月20日第1刷発行

 

帯封「『数年以内に君たちは人生最大の失敗をするでしょう』読書猿氏激賞 “70歳という峠に立ったとき、立花隆は何を思い何を伝えようとしたのか。半世紀未来を生きる若者たちに向けた『知の巨人』のラストメッセージ”」「サイエンスからフランス文学、生と死、世界史-知の巨人、振り返る、死へ向かう身体 脳内コペルニクス的転回 泥酔バルシー 二十歳の全能感と無能感 複雑さの収束点 ポスト・コールドウォー・キッズ 不確かな時の波に揺られて 『二十歳の君へ』立花ゼミ特別講義を再編集しました。」

 

表紙裏「死、マラルメ、自身の二十歳の頃、物理、宗教、スーパーコンピュータ、ヴィーコデカルト、世界史、地理、社会と目まぐるしく変わっていく講義の内容は全て一本の糸でつながっていた。若者たちを刺激する、知の旅の入口へようこそ。」

 

第1章[序]

・幼児期、成長期、成人期、老人期の脳波はそれぞれ異なる。20代前半は、極座標中心思考からデカルト座標中心思考に切り替えて成人期を迎えることが重要。即断即決主義から熟慮行動型に切り替えることで新しい文化を生み高度な文明世界を築いた。人類史の簡単な要約はこうなる。これこそがデカルトが人類に与えた最大の贈り物。それに比べたら「我思う、ゆえに我あり」などクズみたいなもの。

第2章[死]

臨死体験の取材をする中でシカゴ大学のロス(死生学の先駆者)のいう受容が可能となりしに対する恐怖がなくなっていった。脳科学の世界でトランスポーターによる軸索流における物質流を分子レベルで観察し発見した東大解剖学の廣川信隆先生に取材したことで世界最先端の分子レベルの解剖学に詳しくなった。

第3章[顧]

・世にある本の相当部分は頭の悪い人が書いた頭の悪い文章の羅列で読む価値がない本。重大な問題に対し暗中模索するなっかでどう解を見つけていくか。言語世界と現実世界には本質的なズレがあるので言語表現の微調整をやってみる、要するに言い換えてみる。次に数学を使ってみる、わからないことをxやyに置き換えて、xやy入りの文章をたくさん書いてもいる。もう一つはトポロジーの考え方。問題設定が出来上がれば答えは半分見つかったも同然。ウィトゲンシュタイン論理哲学論考』のまとめの一節「およそ語りうることはすべて明晰に語りうる。しかし語りえぬことについては沈黙せねばならない」は、ものを考えるうえで一番役に立ってくれた一節。I/O比は一定以上に保つことは必要。平凡でないある程度以上の水準のものを出そうと思ったらI/O比が1000位までいかないと駄目。

第4章[進]

フリーマン・ダイソンの『多様化世界』と『宇宙をかき乱すべきか』は若いうちに読んでおくことを勧める。イエズス会修道士テイヤール・ド・シャルダンは人間の進化についていずれはオメガポイントに至る(キリストの再誕)と説く。一部そっくり重なる思想の持主としてベルナツキがいる。遺伝子レベルで進化を検証するようになり異本の木村資生博士の「進化の中立説」が基本的に正しいことが証明された。

第5章 [考]

・演繹(deduction)、帰納(induction)、仮定推論(abduction)、要素還元(reduction)のうち、正しさが論理的に保証される三段論法的な厳密な推論はdeduction(筒から引き出す演繹)だけだという事を知っておく必要がある。詩人エリオットの“The Waste Land”荒地の冒頭の一節APRIL is the cruellest month(四月は残酷な月)は聖杯伝説に基づいていて、聖杯伝説を背景にしてはじめて理解できる。エリオットは、ジェシー・ウェストン『祭祀からロマンスへ』とJ・G・フレイザー『金技篇』から詩の着想を得た。フランシス・フォード・コッポラ地獄の黙示録』のクライマックスではこの二冊の本を写し出している。日本の知識人は西洋文化に関して一番欠いているのはポエムに関する知識。有名な詩の一節が秘かに埋め込まれていることがよくあるが、そういう部分がわかるかどうかで人間の教養は試されている。

第6章 [疑]

・歴史を巨視的視点で見ることが必要。ヨーロッパを理解するには神聖ローマ帝国ウェストファリア条約、30年戦争を知らなければ理解できない。チャーチルは二つの大戦をもう一つの30年戦争としたのは、資本主義と共産主義のあいだの宗教戦争と見たからであり、そう見ることで鉄のカーテン演説で冷戦の幕が開いたという流れが分かる。パールハーバーが先の戦争を世界大戦にした。ヨーロッパの戦争が世界大戦になったのはアメリカを参戦させたから。歴史の裏の裏で進行していることと世間一般に伝えられていることでは相当のずれがある。裏の裏を見る訓練、伝えられることの真偽を判定する能力を身につけよ。何があり得て何があり得ないかは事前には決して分からない。だから「パンタ・レイ(万物は流転する)」こそ永遠の真理である。

 

イヤー、知的好奇心がくすぐられる6時間だったことでしょう。20歳過ぎでこういう講義が聞けるというのは東大の強みでもあるんでしょうね。