ウクライナ戦争をどう終わらせるか―「和平調停」の限界と可能性 東大作

2023年2月21日第1刷発行

 

帯封「「国際社会、そして日本は何をすべきか?」

表紙裏「ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年。核兵器の使用も懸念される非道で残酷な戦争を終結させる方法はあるのか。周辺国や大国をはじめとする国際社会、そして日本が果たすべき役割とは何か。隣国での現地調査を踏まえ、ベトナムアフガニスタンイラクなど第二次世界大戦後の各地の戦争・内戦を振り返りつつ模索する。」

 

目次

第1章 ウクライナ侵攻と、世界大戦の危機

第2章 これまでの戦争はどう終わってきたのか

第3章 和平調停・仲介の動き

第4章 経済制裁はどこまで効果があるのか

第5章 戦争終結の課題と、解決への模索 ①領土問題②戦争犯罪③安全保障への枠組み

第6章 日本のウクライナ支援

第7章 今、日本は国際社会で何をすべきか

 

著者は、これまでの戦争の終わらせ方(ベトナム戦争ソ連によるアフガン侵攻、アメリカのアフガン軍事介入、イラクへの侵攻)からすれば、結論として、今回のウクライナ侵攻について、「ウクライナ政府が3月29日に提案した『2月24日ラインまでのロシア軍撤退』、『クリミア半島とドンバスの一部は別途、交渉』、『ウクライナNATOに加盟せず、新たにロシアも含めた安全保障の枠組みを作る』ということをウクライナ政府と国際社会の共通目標にし、経済制裁の解除の条件も基本的にそれにあわせていくことが、この戦争の終結を目指す上で重要だと考えている。そしてこのウクライナ提案については、少なくともウクライナとロシアの現場レベルでは基本合意していたのだ」「その目標に向かって、米国や西側諸国もウクライナと協議を重ね、また西側諸国と共に中東やアフリカの国々、インドや中国も含めた国際社会全体でロシアに対し『まずは2月24日ラインまでの撤退と停戦』に向け、働きかけを強めることが大事であろう。そうした国際社会全体での動きを加速させる上で、中東やアフリカの国々から高く評価され信頼されている日本も、独自の役割を果たせるはずだ。」と指摘する(119~120p)。具体的には「穀物輸出合意で調停役を果たしたトルコや国連がウクライナとロシアの間を再び仲介し、ロシア軍のウクライナ撤退方法や残された領土問題や戦争犯罪の解決に向けた協議機関の設置、そして新たな安全保障の枠組み作りなどについて、両者の合意に向け役割を果たせる可能性はある。またそうした方向に持っていくよう、米国はウクライナを、そして国際社会全体がロシアを促していくことが肝要であり、またそれはこの戦争を終わらせるために極めて重要だと私は考えている。」(121p)

その中で、ウクライナ支援として日本が出来ることについて、著者はウクライナ難民を受け入れるホスト国への支援こそ、日本が出来る難民支援の中でも既に多くの経験を積んできた分野であり、今回のウクライナ戦争においてもその知見と実力を発揮できる支援だと思われる(126p)と結論づけ、その例としてホスト国のモルドバへの日本の支援の具体例を詳しく紹介する。そして最終章では、「欧米の圧倒的関心と外交資源がウクライナ問題に費やされる中、日本が中東やアフリカなど第三世界における、一国では解決できないグローバルな課題の解決のために主体的な役割を果たすこと。それは現地の人々や政府からも、そして欧州諸国からも感謝されることだと思う。こうした各地の軍事紛争や地球温暖化、干ばつ、自然災害、感染症などの『グローバル課題』、まさに一国では解決が難しく国際社会全体で立ち向かう必要がある『人間の安全保障の課題』について、日本が世界の国々や国際機関、NGO、専門家とも協力しながら、より主体的な役割を果たしていくことが、『ウクライナ戦争勃発後の世界』における、日本の新たな役割だと私は考えている」(155~156p)。そして「日本は、世界各地で内戦など軍事紛争の解決に向け、他の国々や国際機関とも協力し『対話の促進者』、いわゆる『ファシリテーター』としての役割を果たし、一定の成果をあげた経験を持つ」として、カンボジア、フィリピンのミンダナオ紛争、南スーダンで果たした日本の役割に触れ、今も中村哲医師の偉業を継承してアフガニスタン後で活動を続けるNGOの役割を詳しく解説している。

ウクライナ戦争は果たしてどうしたら終わらせることができるのか、そのために日本は何ができるのかという難しい問題を考える上で大変参考になった良書である。この問題について論じた本はそれなりに出版されるようになったが、どれも抽象論が多い中で、本書はかなり具体的に踏み込んだ内容になっていて大変勉強になると思う。