水滴 目取真俊

2000年10月10日第1刷

 

表紙裏「徳正の右足が突然冬瓜のように膨れ始め、親指の先から水が噴き出したのは六月半ばだった。それから夜毎、徳正のベッドを男たちの亡霊が訪れ、滴る水に口をつける。五十年前の沖縄戦で、壕に置き去りにされた兵士たちだった・・・。沖縄の風土から生まれた芥川賞受賞作に、『風音』『オキナワ・ブック・レヴュー』を併録」

 

主人公の徳正はある日突然、体の自由がきかず、声も出せず、右足が冬瓜のように腫れていた。妻のウシがパチーンと思い切り脛のあたりを張ると、親指から水が噴き出し、踵から垂れ落ちる水を水差しで受けるようになる。命に別状はないが、検査しても原因不明。やがて夜な夜な沖縄戦のガマで亡くなった戦友たちが現れ、徳正の足から滴り落ちる水を次々と舐めていく。徳正は元気な時には沖縄戦戦没者慰霊の日の前になると、近隣の小・中学校や高校で戦争体験を講演していた。子供たちを感動させ、大学の調査グループや新聞記者が訪ねてくるようになり、テレビの取材も受けた。本土から修学旅行生を相手に話をするようにもなった。その姿を見たウシは、徳正に対して、「嘘物(ゆくしむぬ)言いして戦場(いくさば)の哀れ事語てぃ銭(じん)儲けしよって、今に罰被るよ」と忠告する。ある時、すっかり腫れが引き、水も止まる。水が止まると、兵隊たちは二度と現れなくなった。というお話。

 徳正は、戦争体験を語るものの、自らの罪は語れなかった。この欺瞞を問う作品である。