おやすみラフマニノフ 中山七里

2011年9月20日第1刷発行 2013年1月23日第7刷発行

 

裏表紙「第一ヴァイオリンの主席奏者である音大生の晶は初音とともに秋の演奏会を控え、プロへの切符をつかむために練習に励んでいた。しかし完全密室で保管される、時価2億円のチェロ、ストラディバリウスが盗まれた。彼らの身にも不可解な事件が次々と起こり…。ラフマニノフの名曲とともに明かされる驚愕の真実! 美しい音楽描写と緻密なトリックが奇跡的に融合した人気の音楽ミステリー。」

 

実家の仕送りが途絶え、アルバイトに精を出しても学費が払えず、学生課から支払催促を受ける生活困窮者の音大生・城戸晶。稀代のラフマニノフ弾きの学長・柘植彰良と共演するメンバーがオーディションで選ばれることを知り、ストラディバリウスが弾け、なおかつ学費免除の恩典が受けられるコンマスの座を射止めようと練習に励み、見事射止める。が、ある日、時価2億円のチェロ(ストラディバリウス)が密室の保管室から盗み出されて弾けなくなる。晶に頼まれ、我らが岬洋介先生が現場検証すると、ちょっとした痕跡が見つかる。その場から岬先生が連れ去され、付けていくと大学関係者の誰が大麻密輸に関わっている話を晶は立ち聞きしてしまう。その後も水を使ったピアノ破壊工作や殺人予告など不穏な事件が立て続けに続き、大学の理事会は演奏会を中止する。が、オケメンバーにとり内外の音楽関係者が集まる演奏会は将来がかかっているため演奏会の開催を強行に求める。そんな中、岬先生は学長の代わりにオーデションで落ちたピアノの才能に溢れる下諏訪美鈴にピアノを弾いてもらうことで演奏会開催が可能と提案。美鈴の性格を知るオケメンバーは当初反発するが、岬の指導でオケと親和性を増していき、遂に演奏会は大成功を収める。がその直前、ピアノ破壊の犯人はペットボトルの蓋を触っていた晶の姿が目撃されたため、晶こそが犯人であるとオケメンバーから思われ、晶はこの演奏会を最後に音楽の世界から身を引く覚悟を固めていた。ところが、演奏会終了後、岬は、真犯人は学長の孫の初音であり、晶は彼女を庇っていると真相を語り始める。実は初音だけでなく学長も多発性硬化症に侵され、治療のために大麻密輸に手を染めたことを知った初音は、祖父の名声を守ろうとして祖父が出演せずにすむように犯行に及んだ。密室の謎は、自らのチェロケースの中に忍ばせたホンモノそっくりのペーパークラフトと入れ替えて密室からの持ち出しに成功。では、なぜ晶は初音を庇ったのか。実は晶の父親は柘植で、初音は姪だったからだ。しかも実は祖父・彰良が、初音が犯行に及ぶように自らの移動時間を細かく教えて犯行に及ぶように仕向けていたことまで見抜く。そこまでして自らの名声を維持しようとした柘植はまさに音楽の神から愛された類まれな才能を遺憾なく発揮して最後の最後で病気に侵された体でラフマニノフの曲を弾く。そして演奏会で素晴らしい指揮役を披歴した岬先生に対し柘植は瞬間体を揺らした岬先生(父は司法関係者で、母はピアニストで日露ハーフのため、クォーターで鳶色の瞳を持っていたという過去が少しだけ明かされている)が難聴の病を持っていることを見抜き、今回のお話は終了する。

 

前半は少々テンポが悪いような気がしましたが、後半から一気に引き込まれました。中山さんの作品は、音楽ミステリというジャンルの中で図抜けた才能をいかんなく発揮されており、驚愕以外の何物でもありません。音楽の世界を文字にする。凄い、です。本当に。