一絃の琴《中》 宮尾登美子

昭和59年10月10日発行

 

苗の一絃琴塾に蘭子が、その後、雅美と雪江が入門する。蘭子は才色兼備で人に後れを取るなと言われて全てに誰にも負けない努力を積み重ねて成長していく。入門時に苗の一絃琴を聞いて絹糸のもつれた音と評した蘭子と、人を慰めることのできる琴を弾けるようになりたいと誓った雅美が対比される形で、お弟子同士の切磋琢磨の様子が描かれる。苗は雅美こそ一絃琴の心を受け継ぐ者と思いつつ身分が伴わない蘭子と、身分や周囲の評価には申し分ないものの一絃琴の心を承継させられない雅美が対立する。雅美と同時期に入門した雪江が芸妓に身を落として一絃琴の名誉を傷つけたことの責任をはっきりさせて破門せよと皆の前で迫る蘭子と、雪江の心配を訪ねた雅美が周囲に琴を触らせたのであり雪江に破門は厳しすぎるとして雪江を守ろうとした雅美との意見が真っ向からぶつかりあった際、苗の夫はけじめをつけねばならぬとの見地から、雪江は破門、雅美は自宅謹慎処分となった。苗はそれでも雅美にだけ師匠から学び人前で弾かず秘し通してきた「漁火」を一日限りで全部覚えよとして伝授する。一方で自らが跡継ぎであることを自負する蘭子は毎朝6時から自主稽古を始め、苗の一絃琴正曲譜本完成の開帙式が行われる際に跡継ぎ発表があるかもしれずと期待を膨らませる中、苗の「残月」を聞き、神技とも言うべき凄さ、迫力に飲まれ、蘭子に与えた衝撃は言い尽くせないものだった。そして突如委細当日発表との緊急招集がかかり、遂に跡目発表かと思い臨んだ場で、苗と夫が現われ、漸く神から女の子を授かった、ゆくゆくは跡取りとして紹介したことで、蘭子は自分は師の苗から恨まれているということを悟り、塾を去っていった。苗は養女の稲子をもらい、塾を継がせた。