一絃の琴《上》 宮尾登美子

昭和59年10月10日発行

 

ネットによると、この本は、土佐藩を舞台に、二人の実在の人物をモデルとして、弦が一本のみの一絃琴の普及に貢献した苗(島田勝子)と、弟子で人間国宝となった蘭子(秋沢久寿栄)の人生を描いたもの。直木賞(第80回)受賞作品。

前半は、幕末という時代、女性が師匠について琴を習得することがいかに困難なことなのかを、これでもかこれでもかというくらいに丁寧に描いている。特に苗が苦労に苦労を重ねて家族をようやく説得して師匠有伯の元に馳せ参じたものの、師匠からは弟子を取ることはしないと言われて何度も追い返され、それでも苗は必死に食らいつく。この場面は、女性の芸に向き合うことの難しさを端的に示す半面、一途にひたむきに芸に向き合おうとする苗の凄まじい執念が描かれており大変迫力がある。師匠の有伯は根負けして苗を屋敷に入れて苗に琴を弾かせるが、「その肩肘張った突っ張りようではまだ一年、いいや、半年とも覚えぬのう」と言い、「そなたもこの上の稽古は諦めなされ。今の儘でも女子供の前なら結構上手で通ろうほどだ」と言って追い返す。更には「琴を弾くには人の胸ぐら取っ摑まえて振り回すほどの怪力が要る。お前さんの力ではまだまだ聞く人を薙ぎ倒すところへは行かん」と言うが、苗は自惚れを反省して再び頼み込み弟子入りを果たす。だが、3年で師匠が亡くなり、結婚後は一絃琴を諦める状況となった。死別後に再婚し、相手の公一郎に理解があったため、再び一絃琴を手にした苗が自ら塾を運営し、大勢の弟子に教えるようになるまでが描かれている。