2020年10月NKHテキスト 春琴抄のほか、痴人の愛、吉野葛、陰翳礼讃を取り上げている。
針を刺したら眼が見えぬようになると云う智識があった訳ではない成るべく苦痛の少い手軽な方法で盲目になろうと思い試みに針を以て左の黒眼を突いてみた黒眼を狙って突き入れるのはむずかしいようだけれども白眼の所は堅くて針が這入らないが黒眼は柔らかい二三度突くと巧い工合にずぶと二分程這入ったと思ったら忽ち眼球が一面に白濁し視力が失せて行くのが分った出血も発熱もなかった痛みを殆ど感じなかった此れは水晶体の組織を破ったので外傷性の白内障を起したものと察せられる佐助は次に同じ方法を右の眼に施し瞬時にして両眼を潰した尤も直後はまだぼんやりと物の形など見えていたのが十日程の間に完全に見えなくなったと云う。
余りの生々しさにびっくり。盲目の師匠の春琴が顔面にやけどを負い、包帯を外してもいい頃になると、弟子の佐助が師匠の傷跡を直視しないようにするため、自分の両目を突く場面の描写。
師匠の眼が見えないという境遇に自分も同じように追いやる。直感を最大限に生して芸の道に徹する。小説とは言え、独自の世界・感覚を持った人だと思う。