塞王の楯 今村祥吾

2021年10月30日第1刷発行 2022年1月30日第6刷発行

 

第166回直木賞受賞。

織田信長による浅井長政一乗谷落城で飛田匡介は幼い頃に両親と妹を亡くす。一人必死で逃げる中、塞王と呼ばれた源斎に拾われる。源斎は穴太衆飛田屋の頭。石の聲を聞くことの出来る異才を持つ匡介は後継に指名される。山から石を切り出すのが山方で、その小組頭は段蔵、切り出した石を石積みの現場まで運ぶのが荷方で、その組頭が玲次。両陣営ともに決して落ちない城を持てば互いに手出しができない、世の全ての城がそうなれば戦のない世ができると信じる匡介。大津城主の京極高次は石垣の改修を源斎に頼み、匡介が向かう。匡介のライバル鉄砲職人の国友彦九郎の師匠は砲仙と呼ばれた国友三落。近江に二人の天才とその弟子がぶつかり合う。化け物のような鉄砲を両陣営に持たせれば、太平の世がもたらされると信じるのが彦九郎だった。大津城主の京極高次は、危なければ逃げ、身内の力で出世したと見られ、侮蔑の意味で世間から蛍大名と呼ばれていた。しかし実際に会うと誰をも大事にする城主だった。妻お初も現場に足を運び泥に塗れながら職人に温かい声をかけ二人して人間味に溢れる人物だった。お初の侍女夏帆は幼い頃に経験した落城で両親を失い、その後も二度目の落城を経験する。大津城の改修工事の際に同じ境遇であることを知り互いに惹かれる。遂に大津城の改修工事が無事完了する。源斎は秀吉の伏見城を落ちぬ城にとの遺言を実現するため頭を匡介に譲って伏見城に向かう。家康が残した2000の兵が籠る伏見城を落とすため、三成の軍勢は彦九郎に命じた新型の鉄砲をもって攻め立てる。源斎は新型の鉄砲の見定めるため最後まで城に残り、遂に自らの命と引き換えにその形を見届けて匡介に伝える。東西入り乱れの戦いは大津城で始まろうとしていた。10倍を超える三成の軍勢に囲まれようとしていた高次は民を城内に集めて匡介に城固めを依頼し、守る匡介と攻める彦九郎との激しい攻防戦が展開される。母子を救おうとして撃たれた匡介の意識がなくなると匡介は死んだ妹が賽の河原で何度崩されても積み続ける夢を見る。「諦めないで」との言葉が匡介に刺さる。外堀を崩され、三の丸、二の丸、本丸と次々に攻め立てるも必死に石を組み続け、双方の本陣対決までギリギリの対決が続く。その中で匡介が源斎から教えられた言葉を思い出す。源斎は、奥義は「技」ではない、言葉で伝えても意味がない、すでに伝えているとも。匡介はハタと気づく。一つだと何の変哲もない石も、寄せ合い、噛み合って強固な石垣になる。そして城を守る人も同じだと。最後に要石が割れ匡介としても打つ手がなくなり、同時に彦九郎の本丸を撃ち続けた長筒も限界に到達した、まさにそのタイミングで高次は大音量で開城するとの一言を発し民を救い、戦いが終わる。

 

戦争を亡くすという思いは共通していながら、一方は武器を磨き、他方は守備を固める。それぞれに師匠がいて弟子がいて、戦場では相手の上を行く戦略・知略が物を言い、それでも最後は人と人との結びつき、優しさが人を生かす。長編でしたが、読み応えのある内容でした。