塩狩峠 三浦綾子

昭和48年5月25日発行 平成17年2月25日77刷改版 平成26年6月5日94刷

 

帯封「暴走する列車を止めるため、自らを犠牲にする主人公。人間には、こんな『善』の力もある-佐藤優 370万部突破の《不朽の名作》『塩狩峠』誕生50年」

裏表紙「結納のため札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車が、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れ、暴走し始めた。声もなく恐怖に怯える乗客。信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた…。明治末年、北海道旭川塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、人間存在の意味を問う長編小説。」

 

永野信夫(長野政雄という実在がモデルがいた)は、明治10年2月、東京の本郷で生まれた。永野の祖母はキリスト教嫌いで、クリスチャンの母を家から追い出した。そんな祖母の影響で信夫も幼い頃はキリスト教を嫌っていた。父や母、妹が祈ろうが教会に行こうが拒絶し続けた。大人になった信夫は妹の夫から聖書をもらい読む。小学校時代の親友吉川が札幌に転校し苦労しながら母と妹と生活し文通を続けていた。妹には押し花を送り続けていた。信夫は東京の仕事を辞めて札幌に渡り、親友の妹ふじ子が胸の病を患っているのを知りながら嫁にもらいたいと打ち明ける。親友から妹がクリスチャンだと聞いて大層驚き、初めて聖書をきちんと読もうと思うようになる。心の中でも姦淫するなかれ、左の頬を打たれたら右の頬を差し出せ、仇を愛し汝を責める者のために祈れ等と書かれた聖書を読んで考えに耽る。駅前で雪玉をぶつけられても説教を続ける伝道師の姿を見てクリスチャンになろうと決意し洗礼を受ける。信夫は職場でも教会でも信頼を寄せられていった。札幌の職場で同僚の給料袋の盗難事件が起きた時も聖書にある善きサマリア人のたとえを読んで隣人をクビにしないでくれ、自分も職を賭けて二度と悪さをさせないと土下座して上司に頼み込む。上司は旭川に転勤となりこの隣人も旭川に連れていくことに。信夫にも旭川に一緒に来いと誘い二つ返事でその場で即答する信夫。ところが隣人に監視のために旭川に来たと勘違いされ、酒に酔った勢いで絡まれる。一旦は憎む心を抱くが、隣人こそが己の醜い心を教えてくれたと懺悔の手紙を書く。いつも質素な生活をし、教会に多額の献金をし、教会の集会に出席して自費で各地を伝道していた。ふじ子は健康を取り戻し信夫と結納の日取りを決め、信夫はふじ子を連れて東京に戻り牧師の道に進むことを考え始めた。

結納の当日、信夫の乗車する旭川から札幌に向かう列車が、塩狩峠の頂上に差し掛かろうとした矢先、坂を下り始めた。車内はパニック状態となるが、鉄道職員の信夫は皆に落ち着くよう声をかけ、咄嗟にデッキに出てハンドルブレーキを思い切り引く。列車の下降速度はだいぶ緩まるがそれでも止まらない。急カーブが続く線路で完全に停車しなければ脱線し乗客が全員死亡してします。絶対絶命の状況下、信夫は自分の体を線路に投げ出し列車の下敷きにすることで客車を停車させた。

 

「人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない」

ヨハネによる福音書15章13節)

 

キリスト教って何なのか良く分からなかったが、この小説を読むことで、スゴい宗教なんだなということを少しは理解できたと思う。原罪を負う人間のために、何も悪いことをしたことがないキリストが代わりに人々の罪を背負って死んでいった、それは神のみ為せる業だという信仰だと理解してよいのかどうかは分からないが、それに殉じた信念の人がいたという史実は学ぶべきところ大である。