序の舞《一》 宮尾登美子

1987年4月10日

 

葉茶屋を営む母勢以は、家の中に次女津也が見当たらず隣近所を探し回った。すると砂絵描きが描いた絵をじっと見つめていた幼い津也を発見した、というところから始まる。長女志満は酒博打にのめり込んだ先夫仙吉の子でおっとりタイプ、津也は身籠っている最中に病死した弥兵衛後夫の子ではっきりしたタイプだった。勢以は2人の子を平等に扱えず、津也の方ばかり無意識的に目が向いていた。津也は勢以が朝晩鏡に向かって髪を梳かし紅をさす姿をいつまでも眺めていた。志満は学校にいつの間にか通わなくなったが津也が学校好きだった。志満はお針の稽古事には精を出したが、ある時親せきを名乗る男に稽古場から連れ出されて金時をご馳走になり簪を買ってもらった。そのことで勢以に叱られた志満はあれが父親ではないかという疑念を首を擡げた。図工の中島先生は津也の絵の才能を見出し煙草盆の絵を描かせて出展させると入賞した。小学校を済ませた後は家にいて稽古事に通わせるのがふつうだったので、画学校を進める中島先生の話は聞き流していた。ある時お使いに出た際に京都画学校の看板を見た津也は再び絵を習いたい気持ちが強くなる。中島先生を訪ね京都画学校の設立由来を聞き、意を決して勢以に画学校に行きたいと願い出る。が、家業一途の一家の中で道楽と見られかねない絵の勉強に賛成できずに反対した勢以はこれ以降悔悟と苦渋が始まった。家事を任せても絵に夢中になると家事を忘れてしまう津也を見て画学校に行かせることを決断する。学校で松渓に習うだけでなく松渓の塾でも人物模写をするようになった。松渓が学校を去ると津也も学校を去り、15歳で如雲社の展覧会に「美婦人図」を出展(松渓より雅号「松翠」をつけられる)、16歳で内国勧業博覧会絵画部で「四季美人図」を出品して受賞し、松渓より記念品として刷毛四本揃えを貰った。津也は賞金60円を手にして母と姉に高級な着物をしつらえた。

 

上村松園をモデルとした小説です。続きが楽しみです。