悪党の裔《中》 北方謙三

2021年5月20日発行

 

六波羅軍が正成が籠城する金剛山千早城を潰そうとしている今こそ、播磨を出て六波羅軍五万を迎え撃つために東上する時が来たと考えた円心だった。大塔宮は吉野が落ちた後、当初高野山に向かったが、円心に仕える麻雨の助言で金剛山金剛山に向かうことにした。北条時知を大将とする二万を超える軍が布陣を始めた。しかし少数精鋭の円心の軍が勝った。敵は総崩れとなり敗走した(第5章 原野の風)。

円心の軍が奇襲を受けて敗退すれば、その夜すぐに夜襲をかけて勝利するなど一進一退の攻防が続いた。六波羅探題を目指して進軍し、桂に到着した。ここから東へ攻めれば六波羅だった。桂川に突っ込んだ。六波羅探題を目前に敵が必死に援軍を加えて守り切った。円心は撤退した。上月景満を失った。千早城は膠着が続いた。隠岐に幽閉された後醍醐天皇隠岐を脱して伯耆にいるとの知らせが入った。円心は大塔宮に会った。大塔宮は北条を倒し、同時に武士の政権も断ち切ろうとしていたが、円心が挙兵したのは、朝廷の為ではなかった。北条を六波羅を倒す、それだけだった。そのためには伯耆船上山に兵を挙げた帝が源氏の足利を動かして平氏を討たねば幕府を倒すことはできないと円心は大塔宮に情勢を伝えた。そして足利高氏に進発の命が下った(第6章 遠き六波羅)。

足利高氏畿内を中心とした反乱の情報を得ることに腐心していた。正成は千早城に拠り二十万を超える攻囲軍の攻撃に数カ月耐え続けていた。播磨では円心が挙兵し今も京を窺う気配だった。忍びの青霧が浮羽を伴い、円心が高氏に話したいと伝えた。高氏は幕府を倒すには叛乱だけでは足りず、己が立つことが必要だと分かっていた。円心は、高氏を倒幕に踏み切らせるきっかけこそが天下を決したいと考えていた己のやりたいことだった。円心は単身高氏と会った。高氏を引き込むための戦に円心は自らの命運を賭けるつもりだった。円心は高氏に四千を当て、名越高家に二千を当てたが、真の狙いは名越だった。名越を討てば高氏を引き込めると踏んだ。そして名越を討ち取った。円心は高氏に、もはや妨げる者は誰もいないと伝え、高氏は全身が震え始めるのを感じ、総力を挙げて京へ攻め込み命運を賭けた。勅命を受けて北条を討つと全国に使者を出し、六波羅の制圧に動いた。両者互角のぶつかりあいが続いたが、遂に六波羅に勝った。高氏は自然に棟梁として振舞い始めた。それに大塔宮が怒った。円心は高氏が軍忠状を出し、朝廷で恩賞を決めるしかないと考えていた。新田義貞が総大将として鎌倉を攻めた。円心は大塔宮と高氏の間で新たな争いが起きた時、自分はどういう立場に立てばいいか。どこに立とうと所詮播磨の悪党。そう思うしかなかった(第7章 白き旗のもと)。

高氏と大塔宮の対決姿勢が明らかとなった。円心は帝から労いの言葉をかけられただけだった。正成が参内し円心に会いに来た。正成は足利が次の天下と見、円心もそうだろうと思う。船上山から帝は還幸したが、足利高氏が武士の沙汰を始めた。北条を足利に替えるだけの戦いだったのかと考え、足利討伐の兵を挙げることを考えた大塔宮は小寺頼季を呼び付け切先を突き付けた。大塔宮が征夷大将軍になれば高氏がなることはないと頼季が助言してその場を逃れた。円心は、帝が高氏を鎮守府将軍に任じたのはこれからは征夷大将軍はないと示すためだったのに、大塔宮が征夷大将軍になれば、これからも征夷大将軍はあることになってしまった、大塔宮に勝てば、次の征夷大将軍になれると当然考える、再び出家すればよかった、出家すれば手の届かないところに行ってしまうのを恐れていたはずだ、それを帝ももう一つよくお分かりでないと言った。高氏は大塔宮を排除しようという空気があるうちに全てを決しようとした。大塔宮を支えた山の民が担った兵站の役割の重要性に気がついた。高氏は円心と再会した。円心が恩賞を投げ出しても大塔宮を迎えに行き、正成も同じ気持ちでいたことに高氏は恐怖を抱いた。高氏は円心に、何代にもわたって朝廷のために血を流し続けた武士を捨てることが許されるのか、武士として大塔宮を討たねばならぬ、正成と円心を敵に回したくない、朝廷というところは恐ろしいところだ、朝廷の中で唯一高氏と同質のものを持っているのが大塔宮だが、それすら高氏を潰すために大塔宮を使う、であれば自身を守るために大塔宮を潰さねばならぬ、敵同士になっても互いを知らぬ関係にはならぬよう互いに忍びの者をやり取りしたいと申し入れる。新田義貞播磨国司に任じられた。朝廷の意図が読めなかった。円心は則祐に、自分は女色におぼれ、国司のいう通りに動かない守護だから、則祐に悪党として暴れ、新田の名代を播磨から追い出してみよという。新田義貞の器量は円心はとうに見抜いていた(第8章 征夷大将軍)。