白村江 荒山徹

2017年1月12日第1版第1刷発行

 

歴史・時代小説ベスト10(週刊朝日/2017年)第1位、歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞、本屋が選ぶ時代小説大賞2位。

帯封「悲劇の王子が運命に抗う時、東アジアの歴史が変わる 大化の改新、揺れる朝鮮半島、そして白村江の戦い―果たして真の勝者は誰だったのか。感動の長編小説。奇才・荒山徹、渾身の新境地!」「『輝いてこそ、星だ。人は、星たらねば』 兄の百済王によって処刑されかけた悲劇の王子余豊璋 才知溢れ、王位継承者でありながら不遇をかこつ新羅王族金春秋 冒険心に富み、天皇位簒奪への野心を燃やす蘇我入鹿 聖徳太子の大いなる遺志を継ぐために、策略を巡らす葛城皇子

 

新羅の金春秋は王族でありながら密使として単身で高句麗に渡り高句麗との同盟を結ぼうとしたが、随や唐と隣接して緊張関係にある高句麗新羅と同盟を結ぶメリットがない、新羅には覚悟が足りない、百済の覚悟に見習えと教え諭された。百済は援軍を求めて蘇我氏に鬼室福信を密使として送った。入鹿は身分を明かすことなく豊璋を強く逞しく育てるために孤児連中と一緒に学ばせていた。やがては豊璋を百済の王に即位させる目論見だった。だが入鹿が葛城皇子中大兄皇子)に討たれ死んだ。金春秋と葛城皇子は会談を持った。秘密同盟が交わされた。高句麗は唐の侵略を受け、百済だけでは新羅を攻めあぐねているというのが当時の半島情勢だった。高句麗は、唐と戦うため百済新羅のどちらかと同盟を結ぶ必要があった。百済新羅高句麗と国境を接しており、どちらかと結んで後ろを攻めた方が得策だった。高句麗新羅を選ばなかった理由は、かつて新羅高句麗の属国で対等な同盟相手とみなさないという伝統があったという事に尽きる。新羅は唐軍と協力して百済討伐の軍を興す運びとなり、半島情勢が忙しくなった。葛城はこれを国内情勢に連動させて、停滞中の改革を再推進させることに利用できないかと考えた。百済義慈王は滅び、鎌子は百済に援軍を送り、唐・新羅連合軍との戦いに勝機がある、豊璋が百済王に即位すれば妻祚栄(そえ)を王妃にしてやれると説得し、豊璋は百済再興のために百済に戻る決断をした。豊璋を奉じた百済残党と倭国連合軍と、新羅・唐の最終決戦を迎えるに当たって百済と倭軍のどちらが主導権を取るかの争いが水面下で行われていた。唐の最終目標は百済ではなく高句麗だった。葛城皇子中大兄皇子)は百済に助力するふりをして裏で新羅と結び、百済が滅びれば、百済の官僚を倭国に亡命させ、倭国律令制の確立に協力させられると目論んでいた。敗戦の汚名を被った「白村江の戦い」は、百済の再興を目指して百済・倭連合軍が新羅・唐と戦ったという表の姿とは別に、実は、“人さらいの戦い”だった。