姿勢のふしぎ しなやかな体と心が健康をつくる 成瀬悟策

1998年7月20日第1刷発行

 

裏表紙「はじまりは、脳性マヒの人の動かないはずの手が催眠術で動くことの発見だった!催眠術なしでこの動きを保つにはどうすればよいか?これを追究する中で開発されてきた『臨床動作法』は、肢体不自由者の体の動きの向上はもちろん、健常者、高齢者の体調を整え、リハビリに有効なばかりか、スポーツ競技者の身体意識を高め、うつ病やノイローゼなどの心理的不調の改善にきわめて効果的であった。」

 

目次

Ⅰ 動かないはずの手が動いた

Ⅱ 自分のからだが動かせるためには

Ⅲ 姿勢が人の心をつちかう

Ⅳ 動作法の展開

Ⅴ 心理治療としての動作法

Ⅵ 今後の発展

 

・脳性マヒは変わらないが、脳性マヒの子は変わる。

 脳性マヒの子を催眠状態に誘導し、「動かないと思い込み過ぎているから動かないだけで本当は動く腕なんだ」と説得し、同時に改めて「腕が挙がる」と暗示すると、次第に腕が挙がるようになり、それを繰り返し1年後にはどんなあげ方でも自分で楽に動かせるまでになった。

 催眠に頼らずに同様の効果を得られないかと考えて思いついたのが筋生理学で有名なジョエイコブソンの「漸進弛緩法」だった。彼は、充分な筋弛緩はノイローゼを治しやすいことから筋弛緩法による心理療法を編み出した。これを少し変えて緊張感から弛緩感への体験変化を感じ取らせることでリラックスできるようにしたところ、催眠に劣らぬ効果的な自己弛緩法になることが分かった。

・そのためにはまず動かそうと「意図」する。意図通りの動きを実現するためには「やる気」になって動かすための「努力」が必要。「意図」→「努力」→「身体運動」というプロセスの心理活動を一括して「動作」と言う。適切な努力を伸ばし、適切な援助をして動作の課題を理解し、動かしているという実感が確かめられれば、主導感、自信も出来、安定する。

・まさに意識されている動きの実感を体験と言う。

・人はからだを立てると表情が変わる。重力に対応しながらグッと踏ん張って独りでお座りが出来た時、私たちは生まれて初めて「重力にご対面」できたというが、これが彼に画期的な心身の変化をもたらす重要な契機になる。からだをタテに立てられるようになると、表情が変化するだけでなく、三次元の座標軸の中に主体活動の中軸となる自己軸が出来、よい姿勢が出来ることで活動主体としての自分自身を実感できる。

脳卒中後遺症のリハビリテーションにも催眠法は有効で、自閉症や多動の子、ダウン症の子にも動作法は有効である。

・動作法は心理治療にも役立つ。あがり対策や健康増進法としても有効である。更には知的側面に偏った現在の教育においても、動作という心の活動、自分のからだへの内向きの心を育てる動作法を取り入れることを21世紀教育への提言としたい。