鹿の王(下) 生き残った者 上橋菜穂子

1人の人間そのものの中に、カオスを抱えつつ、微妙なバランスで、命を保っている。また性の分化が始まったところで、命は次の命へとつないでいる。これだけでも十分すぎるメッセージ性がある小説だと思うが、それにとどまらず、人間はたえず他者を支配しようとする深い性がある、その政治性が織りなす愚かしさともどかしさが、これまた絶妙なバランスで、ファンタジーの世界であるにもかかわらず、現実世界のどこかの国を想起させながら、読者をぐいぐいと引き込んでいく。最後はヴァンを探し求めるところで小説が終わってしまったところがちょっぴり残念な気がします。そう思うのは私だけではないのではないでしょうか。せめてもう少しハッピィーがあってもよかったような気がします。