伯爵夫人 蓮實重彦

第29回三島由紀夫賞受賞作。東京大学元総長のネームバリュに加えて、テレビでの受け答えがニュースとして大きく取り上げられたことから、この小説を知っている人は多いはず。しかし、読んで理解できた読者は果たしてどれだけいたのか甚だ疑問だ。小説としては、エロ小説もどきだと思うのは私一人ではないはずだ。特に銀幕の教養がそれなりにないと読みこなせない小説だという解説がネット上には散見されたが、そういう知識がないと読み解けないようなものを小説というのだろうか?確かに戦争を隠れたテーマとして取り上げようとしているのは何となくは分かるし、主人公の出自を曖昧模糊とした形で最終盤になって問題提起をしているあたりは、現代の日本という国の誕生ないし出自とひっかけようとしているのかなという気もするので、小説とはそういうものなのかもしれないという気がしないではないが、甚だわかりにくい。戦争と性行為の類似性を問わんとしているのかもしれないが、性描写は極めて露骨でこれを読んでいて不快に思う読者は大勢いるのではないかと思う。それを吹き飛ばして余りあるメッセージが果たしてほとばしり出る程にあったのだろうか?この小説の真意を読み取れた人の解説を読んでみたいと本当に思ってしまったのだが、そういう感想は大勢の人が持ったんじゃないだろうか。帯封の人達は絶賛しているが、そこまで絶賛した理由を本当に解説してほしいと思います。