たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説 辻真先

2020年5月29日初版 2020年12月11日3版

 

帯封に「最高齢88歳での栄冠‼ レジェンドが放つ青春×本格ミステリ

「3冠! 『このミス』『週刊文春』『ミステリが読みたい!』 第1位」

 

数多くのアニメ(鉄腕アトムサザエさんサイボーグ009デビルマンDr.スランプ アラレちゃんなど)の脚本家である著者は、これまで様々なミステリーも手掛けてきた大御所。本作は、名古屋の高校を舞台に、かつ昭和24年という時代設定で書かれたミステリ。

第1の密室殺人、第2の解体殺人、さて犯人は誰?という定番といえば定番のストーリー展開で、名探偵・那珂一兵が登場して事件を解決するといったお話。「犯人はお前だ!」から始まる、この冒頭の書き出しは特徴的です。勿論、高校の教室で雑談をしている何気ない風景から始まる場面です。それから、古風な表現が所々に垣間見えます。例えば「天地俯仰して恥じませんことよ」なんていうのは今の人はなかなか使わないし使えないですよね。また、主人公の男子生徒が自分の校内で経験したことをミステリー小説にしようとする姿も同時に見せながら、ストーリーが展開するという、ミステリー小説の中にミステリ小説があるとの箱庭的構成も取っています。そして最後の最後で、名探偵が突き止めた犯人がどうして自分が2人を殺さざるを得なかったかについて、誰も知らない動機を語り、同情的な面を強調して物語は終わります。なお、共学となってすぐの時代が舞台となっているため、当時の共学というものが社会でどう受け止められ、男女の高校生がどういう関係であるべきなのか、周囲は共学の生徒たちにどんな目を向けていたのか、そして時にどんな嫌がらせをする時代だったのか、また戦前の慰安婦とか、戦後の米兵と結婚した高校生も登場させるなど、時代考証的なことも交えながらストーリはどんどん展開していきます。

そういう意味ではミステリのオーソドックス・正統派であり、ジェットコースターとまではいえないにしても話の展開がポンポンと小気味よく進み、読んでみて面白かったなあとの優良印のつく一冊だと思います。何よりこれを88歳という高齢の方が書かれたことに敬意を表するともに感動し驚いています。こんなミステリがかけるおじいちゃんになりたいものですね。