15歳の寺子屋 ゴリラは語る 山極寿一

2012年8月30日 第1刷発行

 

知らない世界って、本当にまだまだたくさんある!

ゴリラの研究で山極さんの名前は著名ですが、ゴリラの家にホームステイまでして、フィールド・ワークを実行されていたとは知らなかったです。

ダイアン・フォッシーという女性の博士がマウンテンゴリラの群れの中に入って調査することに成功し、その人からゴリラのあいさつ音「グフーム」がうまく出せるかテストを受け、まだまだねといわれつつ合格。著者自身がゴリラと対面した際に「グフーム」とあいさつを返して初めてゴリラに受け入れてもらうことに成功する。ゴリラの「のぞきこみ」行動も、ゴリラならではのあいさつ。サルの場合だと視線を逸らすのが正解だが、ゴリラの場合は互いに目と目を見つめ合うことであいさつすることをフィールド・ワークを通して学んでいく。「グコグコグコ」は笑い声。笑い声を出す動物は類人猿と人間しかいない。子どものころから遊ぶことはとても重要で、動物園で育ったゴリラは遊ぶ機会が少ないため、交尾ができなくなったゴリラも少なくないとか。人の共鳴集団の規模は10から15人くらいだそうだが、人は言葉という手段を手に入れたことで共感が薄まっていくことを見過ごしてはいけないとも。遊びや笑いを通じた、他者との同調や共感がなくなると、ゴリラも人間も生きることの土台が揺らいでしまうのかもしれない、との指摘はとても示唆的です。ゴリラは争うことはあっても敗者を作らない。ところが人は暴力で相手を傷つける。戦争の3つの原因として筆者は①所有②言葉③アイデンティティがあると考える。そして更に⓸過剰な愛があるように思うとも。また定住生活は土地から離れることが出来ない短所があるとも。

さらに、思い通りに行かない自然に身を置くことで、思い通りにならないことに出会った瞬間が、じつはものごとのはじまりであり、前に進むための扉をあけるきっかけになる、だから自然は大切なんだという著者の主張には目から鱗です。ゴリラは人間にとってよき「鏡」となってくれるという著者からは、ゴリラ愛だけでなく、人間愛もひたひたと伝わってくる。それにしても知らない世界を学び、心が豊かになっていくひと時を持つというのは実に楽しいものです。