世界の知性が語る「特別な日本」 会田弘継

2021年9月20日発行

 

第1章 英雄であり、残忍な支配者 リー・クアンユー

    福田赳夫と「銀の御所車」

    77年8月、福田ドクトリン演説が行われ、3つの原則が表明される。

    1日本は平和に徹し軍事大国にならないと決意する

    2真の友人として「心と心」の触れあう相互信頼関係を築く

    3対等なパートナーとして東南アジアの共存安定に寄与する

     この後、シンガポールは日本の支援を受けて大きく変わり、発展を遂げた。

 

第2章 戦前日本を賛美する胸のうち 李登輝/張有忠

    張有忠は、東京帝国大学に進んだ後、穂積重遠法学部長に推薦されて大阪地裁判事後、台湾で検事を務め、後に弁護士に転身して「光華寮」裁判に関わる。京都市にある戦前からの中国人留学生寮「光華寮」の所有権をめぐる中国と台湾の長期訴訟。なんと一審で台湾敗訴(1977年)、大阪高裁で差戻し(1982年)、差戻後の一審でも台湾勝訴(1986年)、控訴審でも勝訴(1987年)、最高裁で動きが止まり20年放置。2007年に一審差戻しとなり、今も続いている世界最長の裁判。

    李登輝京都大学に学ぶ。著者が2007年秋に試みた取材記を中心にまとめられている。

 

第3章 深い傷を負っても切れない絆 呉建民/王緝思/許智宏

    ①呉建民 中国外務省の報道局長、フランス大使、外交学院長を務める国際派

     松本重治、松夫文夫、竹内好松本健一の文脈で著者は中国を捉える

    ②王緝思 国際政治学者、③許智宏 元北京大学学長 木原均(種なしスイカを開発)、この3人のインタビューを中心にまとめた章立て。

 

第4章 「東郷神話」と「日本の乙女」 プロストガリ

    緒方貞子ガリを中心にまとめている。エジプトの国民的大詩人ハーフィズ・イブラヒム『日本の乙女』という詩はエジプトにとっての日露戦争を描いた。ガリが日本に大きな期待を持っていたと。

 

第5章 ドイツ占領下で、北斎の衝撃 アンジェイ・ワイダ

    『カティンの森』以前の『灰とダイヤモンド』の衝撃的な大胆さが北斎であり、『地下水道』の構図の大胆さも北斎的構図にかなりを負っているとか。いずれも観ていないので少々眠たくなる。

 

第6章 南北戦争明治維新という並行 ジョン・ダワー

    南北戦争の南部と日本が似ていることを見つけた江藤淳とは同じ考えではないものの、「並行し、競い合う諸近代」というダワー独特の考え方で日本とアメリカの平行する近代を見ているとする。

 

第7章 満州と広島、建築への衝撃 レム・コールハース

    日本の前衛建築家集団メタボリストらについての大部の著書『プロジェクト・ジャパン』の著者コールハースは、丹下健三が及ぼした大きな影響に着目。近代日本建築の重要な転換点は満州侵略。日本建築界はそこで初めて工大なオープンスペースに出会う。白地に自由に巨大歳のプランを描くことが可能になった。それに相続的思考をかき立てられたのが若き日の丹下で、戦時中に、ニッポンの伝統と近代建築をつなくという重要な知的作業を行った、と説明しているらしい。なるほど、フムフム、って感じがします。

 

第8章 アジア両端で西洋近代と対峙 オルハン・パムク

    私が範としていたのはドフトエフスキーと谷崎だ。表紙の帯封にこのコピーがあったので手に取った本だった。「ドフトエフスキーの反西洋感情は政治的だ。谷崎の場合は、文化的といえる。谷崎のやり方の方が好きだね」と。「ドフトエフスキーは、最後には宗教原理主義者のようなふるまいになっていく。西欧化を目指す知識人に対し、黙って全面戦争を仕掛けるような具合だ。谷崎は微妙に、巧妙に伝統文化を守ろうとした。寛大で、オープンで、ユーモアたっぷりのやり方でね」

 

最終章 第3の敗戦を乗り越えて

    明治国家と戦後国家という二つの焦点を持つ日本近代は一体であり断絶はない、楕円を形成しているという。戦争責任は世代が代わっても引き継ぐべきかという問いに対しサンデルは、過去に誇りを持つなら過去の暗い側面に対し責任を取ることもできなくてはならないと答えたという。確かに。

 

第4章以下が難しくて頭の中にスーと入ってこなかったのは私の知的限界なのだが、知らないことが多くあったので、為になった。