NHKテキスト2020年10月 100分de名著 谷崎純一郎スペシャル 陰翳礼讃 島田雅彦

「日本人の精神の安定には、薄暗さと清潔さ、そして静謐が関係してくるのだという谷崎の持論が展開されます。ここを読んでもわかる通り、『陰翳礼讃』は、一種の住居論であり、空間論なのです。谷崎の著作のなかでももっともワールドワイドに普及し流通した作品だと思われますが、その理由として、本書は文学の領域のみならず、日本文化や建築を研究する人にとっても、ひじょうにユニークな「教科書」として機能したからです。」

 

この箇所がもっとも『陰翳礼讃』を分かり易く紹介しているくだりだと思います。黒川紀章の「共生の思想」の中にも、『陰翳礼讃』が引用されていたように記憶していますが、「共生の思想」で黒川が述べようとしたところと『陰翳礼讃』は日本文化を理解する上で通底するものが同じように思います。島田さんが指摘するように、谷崎小説は、「他人には隠されがちな暗部も含めて、人間という存在、その業の奥深さを知る」ことにかけては、ぴか一だと思います。島田さんの「彼は、日本の『色好み』の伝統と、自身の『変態性』を武器に、阿呆者のふりをしながらこうして人間を描ききり、日本文学史にたしかな足跡を残していった」という評は当たっていると思います。

 

原作は『痴人の愛』しか読んでいないので、時間のある時に、もっと谷崎の世界に浸ってみたいように思います。