パンセ抄 ブレーズ・パスカル 鹿島茂編訳

2012年7月14日第1刷発行 2012年7月24日第2刷発行

 

フランスの科学者。1623年6月19日生まれ。19歳で史上初の計算機を発明、23歳でヘクトパスカルにその名を残し、30歳でパスカルの原理発見。39歳で病死。夭折した若き天才の1人。人間は考える葦、パスカルの賭けで有名な哲学者でもある。

 

編訳者によると、飢餓の克服という「幸福」を実現してしまった人類が、さらなる幸福を実現しようとして必ず突き当たるであろう壁を予見していたパスカル。「無為と倦怠」が襲ってくる。だから人間は「気晴らし」によってそこから脱出しようと試みるが、気晴らしによっても克服できない惨めさとはいったいどこからくるのか?この時初めて人類は神の存在を自覚するだろうという目算の下にこのパンセは書かれたらしい。350年も前に書かれた書物でありながら現代日本人が抱える問題意識に迫ることがなぜできたのか。それは飢餓が克服されたのちの社会における自我と幸福追求の問題を集中的に考察しているからだと。なるほど。それはそれとして面白く感じた箇所を抜粋する。

 

好奇心と虚栄心

 好奇心とは、じつは虚栄心にほかならない。(断章152)

 

裏側の思考

 諸現象の理由―裏側の思考を持たなければならない。そして、民衆と同じように語りながらも、すべてを、その裏側の思考によって判断しなければならない。(断章336)

 

理性と行き過ぎ

 二つの行き過ぎ。理性を排除すること、理性しか認めないこと。(断章253)

 

理性と無限

 理性の最後の行動は、理性を超えるものが無限に存在するのを認めることである。理性はそのことを知るところまで行かないかぎり、じつに弱いものである。(断章267)

 

そのほかにも「気のきいたことと性格の悪さ」「見る方向と誤り」「習慣と自然性」「想像力と極大宇宙・極小宇宙」「部分的な真・善と部分的な偽・悪」「正義と力」「外見の立派さ」「民衆は正しい」「民衆の意見の健全さ」「デカルト」等々、草稿状態の断片であっても、着眼点の面白さにドキっとさせられるものが多々ある。全体はかなり長いものらしいが本書はコンパクトに一冊にまとまっていてとても読みやすかった。