昭和5年7月15日第1刷発行 昭和30年8月30日
「蒲團」から読み始めたが、途中で「一兵卒」の方が気になってこちらを先に読んだ。
満州の病院にいた主人公が、病院の不衛生な環境にたまりかねて逃げるように退院し満州を歩いて遼陽攻撃の戦場に向かおうとするが、脚気衝心を発症し、苦しみ抜いて軍医が来る前に息途絶えてしまう。淡々と客観的な描写に徹していて、感情移入が全くないわけではないが、過度に感情移入させないように落ち着いた筆致で終始話が進んでいく。それでも、戦争中に、とある男性が人知れずひっそりと、しかも苦しみ抜いて死んでいく、という、実は物凄く怖い話。