むき出し 兼近大樹

2021年10月30日第1刷発行

 

 冒頭は、貧乏のどん底学習障害のような感じで勉強が出来ず喧嘩に明け暮れる日々が延々と続き、このまま続くようだったら面白くも何ともないので、読むのをやめようかなと思った途端、中卒後(定時制に一時通ったようだが)、仕事で苦労しつつ、落ちるところまで落ちるのではなく何とか踏みとどまろうと藻掻き続ける姿勢にようやく共感を抱いた。特に高齢者にカニを売りつけようと詐欺電話を掛ける会社に初日で人を騙す仕事はやってられないと啖呵を切ってやめてしまう話や、その後むしゃくしゃして人を殴り過ぎて殺してしまったかもしれないと思って自首した話、裏の風俗のボディーガードのような仕事をした後に大分経ってから逮捕され留置される話、留置場の中で小説に目覚めていく話、警察から昔の仲間と縁を切ろと言われて、母親と友人二人にだけ行先を告げてそれ以外は一切連絡を絶って上京する話、上京当初はものすごく苦労してルームシェアしたり年収20万だったりする話、どうして芸人になろうと思ったのかという話など結構面白く読み進めた。これってかなり実話に近いんじゃないかと思う。私小説っていうか。

 恐らくこの本を書いた動機も、「(芸人として)売れたら本を書いたりなんかして、誰かが檻の中で俺の本を読んでくれたりしてさ、一人じゃないよって、一緒だぜって、同じ階層に連れ出す階段になれたらいいよなぁ」(226頁)って書いてある箇所に表れていて、この部分は特に本心から書いているような気がする。