意識は科学で解き明かせるか 脳・意志・心に挑む物理学 天外伺朗 茂木健一郎

2000年3月20日第1刷発行

 

裏表紙に「最後のそして最大の難問に、突破口はあるか」「物質からできている脳に、なぜ『意志』が生じるのか?劇的な進歩をとげた近代科学に、立ちはだかる最後のハードプロブレム。人間は自らの脳で、この問題を解決することができるだろうか。21世紀の科学革命を予測する」とある。

 

第1章「量子力学」が描く世界

冒頭にあった、科学技術評論家の天外伺朗さんによる①一般相対性理論、②量子力学、③シュレディンガー波動方程式の説明は、素人である私にもわかるように譬えをふんだんに盛り込んでくれていてわかり易かったです。

 

第2章「隠された秩序」は存在するのか

哲学・宗教と科学との間に一定の対応関係があるという指摘は斬新でした。ちなみに「理事」という言葉も宗教的用語だとは知りませんでした。「あの世」である「理」と「この世」である「事」と、この療法がよく分かっている人が団体の長であるべきだというのが「理事」という言葉、だったとは。

 波動関数の重ね合わせやら波動関数の収縮やらは難解でイメージがかろうじて持てるくらいには説明してくれています。

 

第3章 意識と脳科学

 物理学者のペンローズによる「量子重力理論」。不完全な量子論と重力理論を統合したという「量子重力理論」。ペンローズ著「宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか」(2014年)が面白そうなので入手すべく先ほど手配してしまいました(笑)。本当にこの世の中は知らないことだらけだと実感します(ちなみにメタとしての脳という捉え方の重要性を茂木さんは指摘していますが、このメタという視点って本当に大事だと思います。ここがコンピューターと人間との本質的違いがあるんじゃないかと直感的に思う位です)。

 言語なり意味をつかさどる「ウェルニッケの領野」は何をやっているか未だ解明できていない。脳の研究が進んでいるとは言え、まだ未解明の部分が多く、コンピューターで出来ないことでも脳は出来るというペンローズの学説を紹介しているあたりはへーそんなんだと思う。天外さんの指摘は、実はプラトンイデアというのはそういう前提で議論がされているという趣旨にも読める。今までイデアって何だろう?と思っていたので、一度、じっくり吟味してみたいと思う。

 

第4章 

 時間と空間よりももっと本質的な量がある。すべての時間、すべての空間をたたみ込んだものがツイスタースペースであるとペンローズは説明する。なので時間・空間に依存している一般相対性理論量子力学は本質からかなり遠いと天外氏は指摘する。

 脳科学者の間では、ニューロンが発火した時に生じる心という現象は現在の通説では随伴現象説として説明されている。二元論は脳と心は独立して存在するという考え方。

 私達の感覚は様々な質感から構成されているが、この質感はクオリアと呼ばれ、クオリアが脳の中のニューロンの活動膜電位という物理現象によって生じていることは疑いの余地がない。このクオリア自然法則と結びつくのか、これが21世紀の脳科学の最大のテーマになっているらしい。「赤い花が右に動いている」。これは「右に動いている」、「赤い色、「花」という3つのクオリアが結びついて知覚できるが、この統合が脳の中でどのように行われているのか。このクオリアは数字・シンボルで表すことができない。それを茂木さんは「相互作用同時性の原理」で説明しようとするが、素人には、これが何だかさっぱり分からない領域に入ってしまっている(笑)。これに対し天外さんの反論の方が説得的に思えます。

 ところで随伴現象説は心があってもなくても同じということになるのでゾンビを認めるのと同じ。二元論は心の能動的な役目を肯定するのでゾンビは否定される。天外さんは随伴現象説も二元論も否定し、唯識論と波動関数の収縮により意識が脳を作りだし宇宙を作りだしているという自説を展開している。これもまたついていけない話になっています(笑)。

 

 心と脳の問題はこんなに難しいんだということを改めて学びました。プラトンイデアや哲学・宗教の角度からこの問題を改めて考えてみたいと思います。