2022年2月16日初版第1刷発行
表紙に「偏りのない正しいイスラーム理解を通じて、『正しい世界観・歴史観』を学ぶことを目指している。『はじめに』より」とあり、なじみの薄いイスラームを分かりやすく説明してくれている。イスラームに詳しい研究者に、詳しくない2人の友人が素朴な質問を投げかけて、研究者が答えるという対話形式を取っているほか、行間を結構とっているため、大変読みやすくなっている。
「イスラームはアラビア半島における貧富の格差や金持ちの享楽主義などに対して批判を加え、平等で公平な社会を建設することを訴えた」「ムハマンドは、早くから両親を亡くしたので、孤児に対して温かい視線を投げかけている」というイスラームの基本を押えたうえで、イスラーム教徒が世界的に見て増えている傾向にあること、アメリカでは2040年までにイスラーム教徒がユダヤ教徒を抜くとビュー・リサーチ研究所が発表していたことを紹介し、イスラームに勢いがあることを指摘するところから始まっている。
以前はイスラム教という言い方をされていたが、「ラ」の後にアラビア語の長音記号があるので現地語読みに忠実にということでイスラームになった。
ムハマンドは25歳、ハディージャは40歳で結婚。三男四女を授かったが長生きしたのは末娘で第四代カリフとなるアリーと結婚したファーティマだけ。彼女の息子からムハマンドの系譜が広がる。
イスラームでは4人妻の制度があるが、これは、当時、戦士集団でもあったので、夫を亡くした寡婦を救済するために作られた制度。すべての妻を平等に扱わなくてはならないので体験。
イスラームが寛容な宗教なのは①都市・商業の宗教であり②多元的な預言者を認め③移民の民が多いから。キリスト教徒とイスラーム教徒の神は同じ。アラビア語で神はアッラーという。エジプトのコプト派のキリスト教徒やシリアやパレスチナのアラブ系キリスト教徒もアッラーといっている。イスラームは一人一人が直接神に向かい契約するので、神との間を仲介する教会や聖職者などの権威は理念上存在しない。ムハマンドが西暦622年にマッカからマディーナ(当時はヤスリブ)に移住した(ヒジュラ『聖遷』)。これがイスラーム暦元年でマディーナでイスラーム共同体を初めて作りムハマンドの統治権力が作られ、爆発的に広がり世界宗教への道を進んでいく。祈りの方向は当初エルサレムに向かっていたが、西暦624年にマッカ(メッカ)の方角に変わる。マディーナ憲章が制定され、立憲連邦国家ともいうべき政体を作る。ムハマンドは神でも王でもなく預言者としての人間ムハマンドとして商人、政治家、軍人、家庭人、生活者であり、出家や隠遁はしていない。
「多神教徒どもを見つけしだい殺せ。これを捕らえよ。これを抑留せよ。いたるところの通り道で待ち伏せよ」とあるクルアーンを根拠に、イスラームとテロを結び付ける向きもあるが、続きがあり「しかし、もし彼らが悔い改めて、礼拝を守り、喜捨を行うならば、放免し手やれ、神は寛容にして慈悲深いお方である」とある。クルアーンに戦闘的な命令は5,6か所しかなく、平和や寛容を勧める箇所は100を超えている。
イスラームの棄教問題とLGBT問題は今後議論になる。棄教は私的問題ではなく共同体に不和と混乱をもたらす反社会的行為であるとされ、男性は強くあるべきだと考えられているので、新しい時代に向けて平和・共存のための新しい人道的解釈が必要になると指摘している。
エルドリアンは直接選挙によって選ばれたトルコの初代大統領。30%を超えていた絶対貧困率を10年で3%に減少させ、経済成長も一人当たり名目GDPは3倍になったので人気があった。ただ最近は強権的になり批判を浴びている。
十字はキリスト教のシンボルであるため、イスラームのシンボルである新月(三日月)を使って、イスラームの赤十字は赤新月社といわれる。2015年にはトルコは赤新月社を通じて32億ドル拠出したが、これは国民所得の割合で換算すると世界一位。シリア難民も300万人以上滞在している。
勉強になった。戦争のない世界に一日も早くなってほしい。