高瀬舟 『舞姫 森鴎外珠玉選(下)』 森まゆみ/訳

2013年10月15日発行

 

安楽死」と「足るを知る」という、2つの大問題を扱った「高瀬舟」。

安楽死は、古くて新しい問題であり、法律的な議論や倫理的な議論がかしましくなされている。鴎外はこの問題を取り上げたくて本作品を書いたのだろうか?この作品が書かれた時代(大正5年1月発表)は、日本が中国に21か条要求を突きつけて対立が激化していた背景があることを考えると、「足るを知る」ことがメインではないか?それを正面に据えると検閲が厳しい当時の状況から作品が発表できなくなるので、安楽死問題をカモフラージュにしたのではないかと考える向きもあるようだ。どちらがメインだとか考える必要があるのかないのか。鴎外は兄喜助を有道者でありかつ罪人として描いた。ただし作品の全体の印象からすると、罪人というより有道者としての喜助に重きを置いて描かれているように感じるため、やはり先のように考えるのにもそれなりの説得力があるように思う。