2020年8月18日 第1版第1刷
随所に佐藤優さんらしい切れ味があり、また中身も勉強になる知識の宝庫です。
目次とポイント(すべてではありません)を眺めるだけでも、本の中身が読みたくなります。本屋でまさにそうやって私は一冊購入してすぐに読ました。流石です。
まえがき
第1講 なぜ哲学を学ぶのか
「マラパルテの原則」に従えば革命を起こせる
ポイント
・マッカーシズムは、アトム化した個人(バラバラの個人)を束ねていくという発想がない。
・ポピュリズムが通用するのは国内だけ。外国相手にそれをふりかざすと戦争になるリスクも。
第2講 真理へのアプローチ
日常感覚で「学問」が根付いているのはドイツだけ
ロゴスと何か
ポイント
・一見意味のない現実社会とは遠いところにあるものを学ぶことで、見えていないものを理解する「回路」が生まれる。
・主体と客体を分けて考える訓練を行うことで。ヨーロッパ的な意味での真理に近づける。
・真理への4つのアプローチ。「言葉」「心」「力」「行為」。
第3講 建設的な議論のために
哲学的訓練の一環として、イランを考える
今の日本の論壇は「阿呆の画廊」
猫は危機に遭遇すると目を閉じてしまい、死ぬ
ポイント
・「クリティーク」を批判と訳すのは間違い。クリティークとは、相手の論を踏まえて、自分の見解を付加していくこと。
・クリティークの姿勢を欠くと、ヘーゲルのいう「阿呆の画廊」、非建設的な議論になってしまう。
・「新哲学入門」の素朴実在論(素朴的実在相)。人間が身体の向きを変えたり目を閉じたりしてもそこにあった物は変わらないが、人間の知覚風景は変化する。
第4講 人間の認識のしかた
虹は七色ですか?
「物象化」が常識を作り出す
人間は文化的拘束の結果を体現する
ポイント
・「共同主観的(間主観的)」とは、自分と他人との間に共通の認識があるから、物事や世界が成り立っているという考え方を指す。
・廣松渉氏は他者との関係がモノのように見えてしまう現象を「物象化」と呼んだ。この「物象化」により常識が生まれ、社会のシステムが作り出される。
第5講 時代の後退ー20世紀は18世紀
20世紀後半は哲学的に見ると18世紀
二種類の歴史「ヒストリエ」と「ゲシヒテ」
ポイント
・既存の枠組みの中で考えるのが情勢論。既存のルールが間違っているのではと疑うのが存在論。
・第一次世界大戦後、ハイデッガーらによって存在論の時代がもたらされた。しかしアメリカの勝利で世界は啓蒙主義の「18世紀」に戻った。
・歴史には価値観が入っていない「ヒストリエ」(「記述式」)と、歴史上の出来事に意味を見出すゲシヒテ(「出来事史」)の二種類がある。近代の歴史はすべてゲシヒテ。
第6講 「怖れ」と「笑い」について
三四郎はなぜ名古屋で下車したのか?
「学校秀才」という揶揄
人間はどんな時に笑うのか
ポイント
・テキストを読み解くアプローチには、対象の歴史的、時間的な変化を追いかける「通時性」と、共通の時間における変化や差異に注目する「共時性」がある。
・罰への怖れが、人の行動を固定化させる。
・人間は、自分の論理で理解できることと理解できないことの境界線に触れた時に笑う。
第7講 閉塞感がもたらすもの
昭和10年代の江戸ブーム
ファシズムとナチズムの違い
ポイント
・昭和10年代にも「江戸ブーム」があった。「時代小説ブーム」の現代との共通点は「時代の閉塞感」。
・ナチズムは優秀なアーリア人を増やしていくという単純な考え方。
・それに対し、ファシズムは皆で支え合い、仲間を束ねていくという発想。
第8講 この世界はどうやってできたのか
東洋における「存在論」
仏教が考える世界の成り立ち
ポイント
・「存在論」がある欧米の人たちは、日本人と比べ世界の成り立ちに関心が高い。
・仏教の「阿毘達磨俱舎論」では、業の働き、関係性によって自然界が生み出されたと考える。
第9講 ナショナリズムについて
「ナショナリズム」はエリート階層に上る一番の近道
近代以前に、国民・民族という概念はなかった
ナショナリズムを鎮めることはできない
ポイント
・ナショナリズムの起源は古代にありとするのが「原初主義」、近代以前にナショナリズムはなかったとするのが「近代主義」あるいは「道具主義」。
・概念・理論は誰かが自分の都合のいいように作り出すもの、というのが道具論の視座。
・ナショナリズムを煽り立てることは容易だが、それを沈静化させることは難しい。
第10講 神話に囚われる人たち
竹島問題とは、韓国人にとって「恒真命題」
マルクスの「物神崇拝」-神話に囚われる人間たち
知識人は「本物」になってはいけない
・韓国人にとって竹島問題とは、母国語の文法のように疑問を一切持たない文法命題である。
・人間の作り出した神話に、人間が囚われてしまう「物神崇拝」。そのポイントになるものは貨幣。
・日本にもさまざまな神話がある。知識人は、常に物事を冷静に見る目を養わなくてはならない。
第11講 信頼の研究
信頼と時間
嘘をついても信頼が失われないケース
信頼関係を、ときには過剰に消費する
ポイント
・信頼と時間には密接な関係がある。たとえば官僚などは、「過去」に重心をおいている。
・自分への評価が低下することを恐れて、仮に嘘をつかれても信頼関係を継続させようとする心理作用がある。
・構築された信頼関係を、ときには過剰に消費することで、信頼の閾値が強く、広くなる。
第12講 キリスト教を知らない日本人
教皇の不可謬性
598年前の生前退位
第13講 バチカンの世界戦略
教皇は「会長兼社長」のようなもの
テロを対話で封じ込める戦略
バチカンは、200年から300年のスパンで戦略を練る
ポイント
・バチカンの世界戦略①-対話によってイスラム穏健派を味方につけ、イスラム過激派と戦わせる。
・バチカンの世界戦略②-中国に対しても対話によって内側から崩す。
第14講 救済のシステム
安倍政権は、気合いで動くヤンキー政治
ムスリムは遅刻した時に何と言うか
キリスト教における救済のしくみ
AKB48は”神”であり”イエス・キリスト”でもある
ポイント
・今の日本では、現場を大事にしようという「現場主義」の名のもとに、反知性主義が広がっている。
・キリスト教では、神が”イエス・キリスト”という肉の形を取ることで、神とつながることができ、救われると説く。
過激派は、スンナ派ハンバリ学派から出ている
「石打ちの刑」を避けるために
切れ者が編み出した「グローバル・ジハード」論
ポイント
・イスラム過激派のほとんどは、スンナ派の中のハンバリ学派から出ている。その学派の一つ、ワッハーブ派を国教としているのがサウジアラビア。
・ビン・ラディンは堕落したサウジアラビアと、同国が手を結んでいるアメリカに怒りを覚え、9・11の同時多発テロを起こした。
・ビン・ラディン亡き後、アルカイダは組織を改革し、ネットワーク型のテロを行うようになった。
第16講 「アラブの春」とIS
「アラブの春」と、その限界
アサド大統領が所属する「アラウィ派」とは?
シリア・イラクの混乱につけ込んだIS
ポイント
・神権思想に基づくアラブ世界では、「アラブの春」が起こっても、民主主義を否定する政権が成立した。
・シリアのアサド大統領は、特殊な土着宗教である少数派のアラウィ派に所属している。ゆえに、スンナ派住民を抑圧することにためらいがない。
・イラクのマリキ政権は、それまで抑圧されてきたシーア派の政権。ISは、シリアやイラクで起こった混乱に乗じて台頭した。
第17講 物事の本質をつかむ「類比」の思考
なぜ日本人は憲法9条を捨てられないのか
「類比」という思考ツールの重要性
ポイント
・押しつけられた憲法9条を受け入れることは、「徳川の平和」への回帰を意味している。内村鑑三がキリスト教を捨てなかったように、日本も憲法9条を捨てられない。