2022年9月10日第1刷発行
帯封「大澤真幸(社会学者) 人間の無意識は奪われているのか? 川添愛(言語学者) 意識がわかるとは? 三宅陽一郎(ゲームAI開発者) 人口知能は世界を再構築できるか? 山本貴光&吉川浩満 大座談会&AIと人間のブックガイド」「最先端の5人が『信頼』をテーマに語り尽くす。ゲーム、言語、哲学の最新知見から、人類の未来が見えてくるのか? もっともわかりやすく、もっとも刺激的な、2022年のAI論」
はじめに 生活と社会のなかの人口知能 山本貴光
Talk1 三宅陽一郎「世界と知能を再構成する」
ゲームAI開発者である三宅氏が目指している先がとても面白い。情報論的AIや人間機械論的発想ではなく、生命と知能が不可分であることを前提に、この世界を達表せる力の源を、我々の無意識よりももっと深い部分で我々が生命として世界を受け入れている場所にある、仏教でいう「阿頼耶識」のような基層に人間は根ざしながら言葉や道具を操っている、その表層の知能だけを模倣させようとしているのが今のAIのアプローチだが、
三宅氏は、内部構造、身体性、世界の偶発性の深さから、強いAIをつくろうとしているのが素晴らしい。
小説の可能性についても、ドフトエフスキ―の作品を読む前と後では、深いレベルで違う自分がいる、そんな効果をもつものは他にはない、物語の体験を通して,その人自身が気づくように体験を組み立ててくれている、それはゲームよりも深い所にたどり着いている、と述べる。うなってしまうほどに的確な分析だと思う。
Talk 2 川添愛「意味がわかるとは何か」
Talk3 大澤真幸「無意識が奪われている」
AIの研究が進むことで人間がものを思考すること、理解すること、認識することなどがいったいどういうことなのか、自分でもよくわかっていなかったということがわかってきた。人間の思考には規範的次元が内在しており、常に過去・現在・未来の物語性を持っている、AIには物語性や規範的次元がない。またフレーム問題や記号接地問題はAIでは解決できない。アマゾンのレコメンド機能は無意識を奪っている、それをハラリは「データ教」と言い表している。カルヴァン派のウェーバーが説いた予定説と同様、資本主義とデータ教は親和性が高い。また、自分の脳と他者の脳がつながったとき、他者との超え難い壁のようなものはどうなっていくのか。その時ブレイクスルーが起きるのか。なんとも面白い問題提起だ。エッセイの中で大澤氏はAIにできなくて人間にできることは無視することだという。何もしないでいられるが故に人間は様々なことができる。AIを通じて我々はそれに気づいたと述べる。死は無為の中の無為であること、他者という謎。AI研究が社会学の基礎理論と交差しなければならない理由がここにあるという。うーん、難しい。
Talk4 座談会「私たちはAIを信頼できるか」
「信頼」というキーワードで、AIを語っているが、そもそも「信頼」という言葉を定義すること自体が難しい。安心と信頼は違うという事に始まり、フォローとアンダースタンドとは違う、信頼の条件とアンダースタンドの条件を探る、そういう視点から、AIの解剖は人類の解剖のためのひとつのカギ、と締めくくっている。
今までのAI本よりも、かなり人間の本質に迫った哲学的な本でもあり、大変面白かった。巻末の「AIと人類の36冊」は、全て読むことはできないが、ちょくちょく手に取って読んでみたい本ばかりだ。