聖書がわかれば世界が見える 池上彰

2022年10月15日初版第1刷発行 2022年12月28日初版第6刷発行

 

帯封「世界に通用する教養が身につく *資本主義とキリスト教の関係 *ロシアのウクライナ侵攻 *分断するアメリカ社会」「聖書の全貌と近代社会への影響を徹底解剖 *旧約聖書新約聖書の違いとは *イエスキリスト教徒ではなかった⁉ *イエスは神なのか?人なのか *カトリックプロテスタントの違いとは *なぜトルコはEUに加盟できないのか? *『目からうろこ』は聖書が由来⁉ *アメリカには中絶を認めない州がある⁉」

裏表紙「日本人だけが知らない世界の教養『聖書』 世界で最も読まれている書物である『聖書』を多くの日本人は読んだことがありません。しかし、『聖書』を知ることは、世界に通用する教養を身につけることであり、世界を理解することにもつながります。本書では、教養として押さえておきたい聖書の全貌を明らかにするとともに、聖書が世界にどのような影響を与えているのか、解説していきます。」

 

第1章 いまさら聞けない『聖書』とは

イスラム教は、ユダヤ人教徒が神様の言いつけを守っていないのでイエスを通じて『新訳聖書』を与えた。しかしキリスト教徒たちも神さまの言いつけを守らなかったのでムハマンドを預言者として神様の言葉を伝えたという立場をとる。

第2章 『旧約聖書』を読んでみよう

 Iphoneなどのアップルのシンボルマークはリンゴの一部が齧られたもので「知識を持った」ことを意味し「聖書」が背景にある。

 バベルの塔の建設は言葉が同じだと進んでしまうので言葉をバラバラにして工事ができないようにされたので塔は完成しなかった。アブラハムユダヤ人・アラブ人の共通の祖先。

第3章 『新約聖書』を読んでみよう

 『新約聖書』の冒頭に4つの福音書が掲載されている(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ)。

 「敵を愛しなさい」、「善きサマリア人」のたとえ、「求めよ、されば与えられん」、「狭き門よりは入れ」、「離縁してはいけない」、「真理はあなたたちを自由にする」、「金持ちが天国に入るのはむずかしい」、「皇帝のものは肯定に、神のものは神に」、「剣を取る者は皆、剣で滅びる」、福音書の後に使徒言行録、「ローマの信徒への手紙」(パウロ)、最後に「ヨハネの黙示録」が掲載されている。

第4章 世界に広がるキリスト教

 天然痘の大流行がキリスト教を広めた(看護は宗教的儀式だった)。迫害されていたキリスト教だったが392年にローマ帝国で国教化され世界宗教に発展。三位一体は旧約聖書にも新約聖書にも記載はなく325年のニケーア公会議で確立した。

第5章 キリスト教の分裂

 西ローマ帝国滅亡の484年に東方正教会とローマ教会に分断されるが、これは正しい教会かみんなの教会かという対立。礼拝の仕方(信者の十字の切り方)もカトリック東方正教会では違う。教会の中に座席があるカトリックプロテスタントと椅子のない東方正教会1054年に互いに相手を破門する。双方が和解したのは1965年。ウクライナ正教会はモスクワの総主教の管轄下にある正教会(当初500万人だったがウクライナ侵攻で多くが離脱)と、キーウの総主教の下の正教会(信者数1500万人)の2つ存在する。

第6章 ローマ教皇の権威確立

 破門されたハインリヒ四世が厳冬の時期にカノッサ城を訪問して素足で立ち尽くして教皇に面会を求めた「カノッサの屈辱」(強制されて謝罪する)により、聖職者の任命権は教皇にあることが確立された。

第7章 イスラム世界との対立招く十字軍

 エルサレムでかつて一度だけキリスト教イスラム教が共存した過去がある。1228年に始まった第5回十字軍の際、皇帝フリードリヒ2世とイスラム教徒のアイユーブ朝の君主アル・カーミルは平和条約を結んで平和共存を実現した。ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世は2000年から2001年にかけて十字軍の振舞いを謝罪した。

第8章 キリスト教の再度の分裂-宗教改革

 ペストの流行により宗教改革プロテスタント)やルネサンスが始まる。宗教改革の結果、カトリックは世界に乗り出し世界宗教に発展する(イギリスのカトリック英国国教会カルヴァン派清教徒に)。カルヴァン派の予定説を信じる人達は、神によって救われる人間ならば神の御心に適う、すなわち天職について成功するはず、そこから資本主義の精神が生まれたとウェーバーは説いた。

第9章 福音派が大きな影響力を持つ米社会

 アメリカの国民は4分の3がキリスト教徒で、福音派プロテスタントの長老やパブテスト派、メソジスト派などほぼすべての宗派に存在しており、アメリカ社会に大きな影響力を持つ。レーガンやブッシュを当選させた。特にブッシュの場合、本人が福音派を強調し、福音派の熱心な支持で勝利した。福音派エルサレムイスラエルが守ってこそキリスト再来すると信じているが、その福音派の支持を得るためトランプはテルアビブからエルサレムアメリカ大使館を移転した。中絶の権利を認めなかったアメリカ連邦最高裁の判断もカトリックプロテスタント福音派の勝利であり、キリスト教の影響はアメリカではここまで浸透している。

 

『聖書』の概略を理解するのには非常によいテキストだと思う。

また随所に豆知識のような情報も散りばめられていて、読んでいても面白い。

例えば、聖路加国際病院は「せいろか」ではなく「せいるか」と読む、ルカは医師でキリスト教を基盤にして設立された病院。フランスで事実婚が多いのはカトリックでは離婚が認められていないから。パウロが回心する場面で「目からうろこが落ちる」という言葉が使われている。パウロが書いた「ローマの信徒への手紙」でキリスト教の教えを集大成しこれが広がり福音書が執筆された。イエスを信じる者は全ての人が救われるとしたことでキリスト教世界宗教として発展。キリスト教ローマ帝国の国教となり多神教が禁止されたことでオリンピックは廃止された。偶像崇拝の可否は三位一体の解釈の違いにある。ロシア正教会の総主教はKGB出身。コンクラーベはもともと「鍵がかかった」という意味。テロとの戦いを十字軍の戦いと言い間違えたブッシュは、イスラム世界と戦うと宣言してしまい、歴史を理解しないことの恐ろしさを感じさせる、など。