中原の虹2 浅田次郎

2010年9月15日第1刷発行

 

裏表紙「半世紀にわたり、落日の清王朝を一人で支えた西太后が人生の幕を閉じようとするころ、張作霖袁世凱は着々と力を蓄えていた。死期を悟った西太后が考え抜いて出した結論は、自らの手で王朝を滅ぼすということだった。次の皇帝として指名したのは、わずか3歳の溥儀。その皮相な決意を前に、春児は、そして光緒帝はー。」

 

第3章 天命と野望と

徐世昌は袁世凱から龍玉とは何かと聞かれて、龍玉伝説を次のように語る。ヌルハチの弟シュルガチが今際に言い遺した。天地の隔りがなかった世界に盤子という巨人が生まれ天を押し上げ地を踏み下して天地の隔りを作り1万8千年のちに宇宙は今の形に定まった。盤子の心臓は巨大な金剛石に形を変え、それこそが天命のみしるし、天にかわって政をなす者が持つ龍玉。これを手にした人間が黄帝であり、人間たちは天子と称えた。三皇五帝の昔は徳のあるすぐれた人物の間を巡り世は平安に過ぎた。しかし血族によって天下の利を占有しようと考え始めた人間は有徳無徳に関わらず世襲し始め戦が始まった。明の国も14代を算え万暦帝に龍玉は抱かれているが、再び奪え返し民を安んずる英雄は兄ヌルハチ以外にないと。しかしヌルハチはおのが分ではないと断言したが、ジュルチンの若き者たちよ、新たな帝を擁して長城を越えよと。シュルガチの死後、ヌルハチの子らの中で経文を諳んじることが出来たへガンに皇太子になれと兄たちに促された、と。

 場面は日本に切り替わり、吉永ちさが、柳川文秀、復生とりんやその子清一が住む家を訪ねる。

 寿安(西太后の孫)は、西太后の命を帯びて、張作霖の人物の品定めのために、張作霖馬賊用に設けた萬歳楼に出かけ、春雷が応対する。そこに張作霖が戻ってきて、大勢から歓声をもって迎えられる姿を見て、使命を果たして店を去る。テレグラムで西太后と光緒帝はやり取りを始める。語学堪能なプロフェッサー・バックハウスは寿安に誘われて、全聚徳の烤鴨店まで連れられて、春雲とアメリカ人記者バートンの4人で密談の場に参加して、西太后を希代の悪女として大嘘を付くようにと命じられる。西太后と光緒帝の2人でこの国を終わらせ列強の植民地とならず誰かが天命を手にするのを手伝うようにと。

 

第4章 龍の逝く日

 ヌルハチの長子チュエンは兄弟の中で最も勇敢だった。だが、満州の民草を安んじようとしたヌルハチと、漢人の民をも安んじようとしたチュエンとの考えの対立から、ヌルハチは次子ダイシャンに毒殺させる。

 西太后は、5人の軍機大臣の前で、袁世凱が載振を上奏するものの、その企みを見抜きすぐさま却下した後、誰一人予想もしていなかった、三歳の溥儀を大阿哥となす旨宣告する。大阿哥の入城後、西太后の様態は急変し、西太后の密命を帯びて平仲清が光緒帝のいる離宮に駆込む。その一足先に光を失った蘭琴が苦しまずに死する毒入りの壺を帝に託していた。

 この国と民を守るために西太后は死んでいく。誰のものにもならず中華の人民が国土を統べることを夢見つつ崩じていく。西太后を憎むことで民が新しい力を湧かすことを望んで。