ピータ―ラビットのおはなし ピアトリクス・ポター作・絵 いしいももこ訳

1971年11月1日発行 2002年10月1日新装版発行 2019年11月5日新装版改版発行

2021年8月5日新装版改版第5刷

 

「あるところに、4ひきの 小さな うさぎがいました。なまえは、フロプシーに モプシーに カトンテールに ピーターといいました」から始まる、第1作目の発行部数は4500万部を超え、累計2億5000万部を超える、最も有名な絵本の一つ。子ども向けの絵本だが、大人が読んでも大変興味深い。内扉(本文が始まる前の表紙のすぐ裏)には、耳だけ出して布団にもぐりこんでいるピーターにお母さんウサギがカップの中でスプーンをかき混ぜで何かを飲ませようとする絵がある。これは恐らく物語の最後に出てくる場面だろう。ピーターが命からがらマクレガーから逃げて来て家に辿り着いたものの、マクレガーの畑で野菜を食べ過ぎておなかを壊したためにお母さんがお薬を飲ませるセリフがあるが、きっとその場面のことだと思う。前もってお母さんから注意されていたのにそれを聞かずに勝手なことをして結局お母さんに面倒をかけてしまってお母さんにあわせる顔がないというピーターの姿を印象的に冒頭に絵で語らせているのだと思う。

 これは小説の冒頭で結論的なことを述べた上で、どうしてそういうことになったのかをこれから解き明かすという小説の手法を、文章と絵で交錯させながら、そして子供向けだからそんな絵で引きつけておいて物語を一気に読ませるという特殊というか独特の手法なのだと思う。

 こんな分析をしている人がいるのかどうかは知らないが、私はそう思った。

 

 この後も、文章と絵が交互に続くが、文章はとてもタンタンと物語として進んでいくが、絵の方が強いメッセージを発している。ピーター以外の3人の兄弟はお母さんウサギのことを良く聞くいい子なのだが、ピーターはお母さんの言うことを余り聞かない性格なのだろう、ピーターが一人だけお母さんに背を向けている絵が印象的だ。

 実は、このときお母さんが子どもたちに伝えていたのは、「マクレガーさんとの、はたけにだけはいっちゃいけませんよ、おまえたちのおとうさんは、あそこで、じこにあって、マクレガーさんのおくさんに にくのパイにされてしまったんです」、というセリフだ。このセリフだけでも十分ドキリとさせられるのだが、それと並んでピーターがお母さんに反抗的な態度を取っているから、その先の展開はある程度予想がつく。

 だからだろうか、お母さんの言いつけを守らなかったピーターは散々な目に遭い、そのために2度涙を流す絵が登場する。したがって、これがとても印象的な場面になっている。文章はタンタンと流れるが、絵で涙を流すピーターを見るので、それがとても印象的なものになっている。

 そんなこんなで、大人も大変楽しめる絵本です。子どものころにこの話を読み聞かせられてどんな感想を抱いたのだろうか?全く覚えていない。また我が子にもこの話を読み聞かせたのだと思うが、我が子はどんな感想を抱いたのだろうか?今度一度聞いてみよう。でもきっと読み聞かせをさせられたことすら覚えていないと思う。