『インビクタス/負けざる者たち』(映画篇)

2009年。南アフリカラグビー・チームの実話。クリント・イーストウッド監督、名優モーガン・フリーマンマット・デイモン主演。

インビクタス」はラテン語で「征服されない者、屈服しない者」という意味。

 

1990年2月、27年の収監生活を終えたネルソン・マンデラ帰還、4年後には黒人達も参加する初の選挙。マンデラは大統領就任、アパルトヘイトは終焉を迎える。

マンデラの大統領としての初登庁日、白人の職員達はクビが言い渡されるのだろうと。しかしマンデラはこう言います。「我々はこれから、未来を作っていくのだ。そのために力を貸してくれる人には、ぜひ残って協力してほしい。我々皆が努力すれば、きっとこの国は輝く素晴らしい国になるだろう」と。

また、大統領護衛チームの黒人リーダーが、白人の公安部隊がチームに加わることに不服を申し立てた際、マンデラは「赦しが魂を自由にする第一歩だ。赦しこそが、恐れを取り除く最強の武器なのだ。頼む、努力してくれ」と。大統領の周辺から「虹の国」作りへの歩みが始まる。

しかし、問題山積のこの国。マンデラが着目したのが、翌年のラグビーワールドカップ南アフリカ大会の開催。しかし、ラグビーは元々白人たちが好むスポーツ。スプリングボクスというナショナルチームのメンバーも、1人を除いて全員が白人。緑と金がテーマカラーのユニフォームを着た彼らは、アパルトヘイトの象徴そのもの。黒人主体となったスポーツ協会は、「スプリングボクス」の名称とユニフォームを廃止し、新たなものを制定しようと。ところが、そこに駆け付けたマンデラは「もはや彼らは敵ではない。同じ南アフリカ人だ。パートナーなのだ。スプリングボクスは、彼らの宝だ。それを取り上げたら、彼らに我々を恐ろしい相手だと思わせてしまう。恐怖は何も生み出さないのだ。もう、卑屈な復讐を果たす時ではない。寛大な心で、新しい国を作るべき時なのだ!さあ、私についてくる者は誰だ?」

 

そんなある日、大統領にフランソワ・ピナール、南アフリカラグビーナショナルチームのキャプテンが招かれ、「君はキャプテンという大変難しい仕事をしているね。どうやって皆に全力を出させるのかな?」「まずは自分が手本を示し、導いていきます」「それは大事だね。しかし、彼らが思う以上の力を引き出すには?卓越した力が必要な時、自らを奮い立たせ周囲を鼓舞するには、何が必要だと思う? …そこには、インスピレーションが必要なんだよ」「私がロベン島の監獄で絶望的な状況になった時、ある詩と出会ってインスピレーションを得た。ただの言葉ではあるけれど、打ち負かされた私に立ち上がる力をくれたのだ」「今、我々は士気を必要としている。国を築くという重要な時にいるのだ。国民誰もが持てる以上の力を発揮せねばならない。今こそ、皆の士気を上げる必要があるのだ」

フランソワは、ここに招かれた意味を悟る。マンデラがフランソワに伝えたかったミッション、それは、ワールドカップでの南アフリカチームの優勝。それを通じて、国民にインスピレーションを与え、国家が1つになることだった。

 

その頃、まだ南アフリカではラグビーは白人のスポーツとして嫌われ、スプリングボクスの試合でも他国チームを応援する黒人が少なくなかった。ある日、そんな彼らに大統領から、ワールドカップPRの一環として黒人地区の子供たちをラグビー指導のため訪問せよという依頼が舞い込む。不満を爆発させるメンバー達。その時、フランソワはこういう。「いいか、皆。俺たちは今やラグビー・チーム以上の存在だ。南アフリカは変わろうとしている。我々も変わろう」その言葉に押され、黒人地区を回る選手達。最初は嫌々ながらの訪問だったが、行った先での子供たちの笑顔に、彼らの意識も変わり始める。その映像が広がり、世間のラグビーのイメージも好意的に変化。

 

フランソワの働きかけの中、選手たちは徐々に前向きにワールドカップに向けた努力を重ねる。そんな彼らの練習場に降り立つ、一機のヘリコプター。中から現れたのは、国務に奔走しているはずのマンデラ大統領。目前に迫ったワールドカップを前に、スプリングボクスへの表敬訪問に訪れた。帰り際、マンデラはフランソワをそばに呼び、そっと紙を手渡す。「長い年月、私の心の支えだったものだよ。君の力になれば…」ロベン島での27年間を支えた詩「インビクタス」。英国ヴィクトリア朝時代の詩人、ウィリアム・アーネスト・ヘンリーの作品。

 

インビクタス(負けざる者)

 

私を覆う漆黒の夜

鉄格子に潜む奈落の闇

どんな神でさえ感謝する

我が負けざる魂に

 

無残な状況においてでさえ

私はひるみも叫びもしなかった

運命に打ちのめされ血を流そうとも

決してこうべは垂れまい

 

激しい怒りと涙の彼方には

恐ろしい死だけが迫る

だが長きに渡る脅しを受けてなお

私は何一つ恐れはしない

 

門がいかに狭かろうと

いかなる罰に苦しめられようと

私は我が運命の支配者

我が魂の指揮官なのだ

 

南アフリカラグビーチーム・スプリングボクスは敵チームにくらいつき、とうとう決勝戦までコマを進め、対戦相手は世界屈指の強豪チーム、ニュージーランドオールブラックス。体格もパワーもスピードも、スプリングボクスを上回る。決勝戦の日。ゲームは一進一退を続け、ワールドカップ史上初の延長戦へと。終了直前、南アフリカ選手の蹴ったボールは、空高く、逆転勝利のゴールへと吸い込まれていく。南アフリカの人々は、人種や派閥の違いを忘れ、皆抱き合い、勝利を祝い、一丸となってこの喜びの瞬間を分かち合う。

 

感動的な実話に基づくドラマでした。ただ、現実の社会の中で、南アフリカ共和国の「虹の国」という夢を実現するのは相当に難しい・・・。でも希望を失わず、前を向いて、着実に努力を重ね続けるしかない、と思う。