マスメディアとは何か 「影響力」の正体 稲増一憲

2022年7月25日発行

 

帯封「マスメディアをめぐる虚像と実像 新聞、ラジオ、テレビからインターネット、SNSまでー『真の影響力』を科学的に検証」「民主主義の番人か、現実を歪めるフィルターか 『マスコミを信じるな』。ネットの浸透に伴い、高まるマスメディア不信。長く独占的地位にあった新聞、ラジオ、テレビに、近年は不要論まで語られる。社会にとって、マスメディアとはどのような存在なのか。そもそも、『世論を動かすほどの大きな影響力を持つ』というイメージは真実なのか。長年の研究成果をふまえ、問題視される偏向報道、世論操作などの実態を科学的に検証し、SNS時代のメディアのあり方を問いなおす。」

 

第1章 マスメディアは「魔法の弾丸」かー強力効果論とその限界

  1 プロパガンダの威力は本物か

    強力効果論の登場/ナチスプロパガンダという「神話」

  2 『宇宙戦争』事件とは何だったのか

    ラジオドラマを本物のニュースだと思い込んだ人々/『宇宙戦争』事件の実態

    /『魔法の弾丸』は存在するか

第2章 マスメディアは人々に影響を与えない?―限定効果論の登場

    マスメディアの影響力が限定的なものにとどまるのは、「集団・他者レベル」「個人レベル」という二つのレベルのバリアが存在するためである(30p)。これをコミュニケーションの2段の流れと呼び、「個人レベル」では、認知的不協和の低減というプロセスの存在(人間は不協和状態を低減するように動機付けられている)が仮定されている(31p)。

  1 マスメディアは人々の投票先を左右しない

  2 マスメディアは人々を直接動かさない

3 マスメディアの影響を弱める「ファクター」

4 マスメディアの影響力をめぐる論争

第3章 社会に広がる「2つのバイアス」―第三者効果と敵対的メディア認知

    第三者効果は「自分自身に対するメディアの影響力とくらべて他者への影響力を過大視する」(社会学者デヴィソン)、敵対的メディア認知は「マスメディアの報道を自身の立場とは逆の方向に偏っているとみなす」(心理学者ヴァローネ、ロス、レバー)という傾向である。

  1 「私はマスメディアに影響されない。しかし他人は影響される」

2 「マスメディアは偏向している」

3 マスメディアに「偏向」のメリットはあるか

第4章 「現実認識」を作り出すマスメディアー「新しい強力効果論」の出現

  1 マスメディアは「何について考えるか」を決めさせる

  情報をいかに取捨選択するか/議題設定理論の誕生/ゲートキーピング機能/争点はどのように作られるか/因果関係をどう確かめるか/実験による検証

2 報道は「思考フレーム」を設定する

  プライミング効果/フレーム効果/心というブラックボックスを開く―認知革命

3 テレビは長い時間をかけて「共通の世界観」を培養する

    培養理論/テレビ視聴の特性/テレビが描く「暴力に溢れた冷たい世界」/テレビの長時間視聴者の意見は似通う/マスメディアの長期的影響

  4 マスメディアは「現実」を操れるか

第5章 マスメディアとしてのインターネットー「選考にもとづく強化」と注意経済

  1 インターネットは「個人の選好」を最大化する

2 アルゴリズムは人々を分断するか 

3 インターネットの理想と現実

4 インターネットの欠点をいかに補うか

第6章 メディアの未来、社会の未来-「健全な民主主義」のための役割

    「マスメディアへのステレオタイプを鵜呑みにするな」

    これが、本書が伝えるメッセージである(250p)

 

最新のメディアに関する様々な研究成果を取り込んで、特にマスメディアの存在意義を改めて問い直した労作だと思う。最近、この手のメディア擁護論を見なくなって久しいので、勉強になった。