入門メディア社会学 井川充雄/木村忠正[編著]

2022年10月20日初版第1刷発行

 

表紙裏「現代のメディアがどのように生成されてきたのかを、その歴史を丁寧にたどりながら解説する、大学1・2年生向けの初級テキスト。メディアの歴史を縦軸に置き、横軸として『社会のなかのメディア』という問題意識を配し、網羅的に学習できるよう構成した。また、『メディア・イベント』や『音楽、地域とメディア』など、さまざまなテーマについても理解を深めるとともに、今後も講義の核となるトピックを豊富に取り上げる。」

 

第1部 メディア社会学の歴史的視点

 第1章 「コミュニケーション革命」とメディアの変遷 井川充雄

      今日の我々は第三のコミュニケーションに立ち会っているようにも思われる、とする

 第2章 ニュースの誕生とニュースという知 土屋礼子

      1997年に5377万部のピークを迎えた新聞は2020年に3500万部まで減少。

      新聞と共に根付いてきたニュースに関わる知をどう受け継いでいくかが課題、とする。

 第3章 ラジオとプロパガンダの理論 小林聡

      なぜか、ラジオという切り口でプロパガンダを語るため、現代性に乏しい。

 第4章 日常に溶け込むマスメディア 竇雪 

      議題設定理論、培養効果理論、知識ギャップ理論がネット社会に変化する中で今後どう変化していくか、と問題提起する。

第5章 インターネットがもたらした社会変革 木村忠正

     ストレンジャーシェイミング、オンライン・オフラインの存在、デジタルネイティブ(第1世代から第5世代まで)など、新しい切り口でメディア論を語る。新鮮さを感じるのは私がデジタルネイティブではないからなのだろう。

 

第Ⅱ部 メディア社会学の理論と方法

 第6章 オーディエンス・エンゲージメント 高橋利枝

      ありとあらゆるメディアの利用者を総称する概念「オーディエンス」

     「エンゲージメント」は多種多様なメディアとの重層的な関与のレベルを内包する、とする。

 第7章 わたしの中のわたしたち 是永論

      相互行為というキーワードから、メディア上の相互行為を捉える。

 第8章 メディア・イベント論の新たな拡がり 三谷文栄

      テレビの生中継、祝祭としてのメディア・イベント論、破壊的出来事についてのメディア・イベント論から、分断、統合、参加という現代的視点を提供する。

 第9章 メディア社会学における調査分析の基礎 池上賢

      量的調査、質的調査から、社会学的調査を実施するために倫理・配慮という視点を提供する。

 

第Ⅲ部 メディア社会学の現代的展開

第10章 メディアの発達と変化する音楽実践 井手口彰典

     音楽を伝えるメディアと音楽というメディアを分けて考えることで、後者には結びつける音楽/切り離す音楽という視点を、前者では録音経路と放送通信の経路を取り上げている。

第11章 メディアにおけるジェンダー表象 藤田結子

      表象と制作の面、ソーシャルメディアとインターネットの状況を分析。オンライン・ハラスメントや自己ブランディングまでをジェンダーに括っているのが面白い。

第12章 情報技術と社会の再設計 和田伸一郎

     大きな政府から小さな政府、そして「大きな社会」への変遷、という視点はとりわけ面白い。

第13章 地域とメディア 庄司昌彦

     行政情報化と地域情報化の区別、ハイブリッド・コミュニケーション、地域ブログポータル、地域SNS等、「地域」という視点から分析するという発想も面白い。

第14章 メディアとしての最先端技術と倫理 河島茂生

     個人のスコア化の問題、サイボーグの倫理などを取り上げている。

 

要するに、ひと昔前の、メディア社会学といわれて議論されていた範疇を大きく超えて、新たな地平線をメディアという視点から様々な角度で切り拓こうとしている意欲的な論文14本をまとめたものだ。こういう本は、とても斬新で面白いと思う。