苦しいとき脳に効く動物行動学 ヒトが振り込め詐欺にひっかかるのは本能か? 小林朋道

2022年11月15日初版発行

 

裏表紙「もし、現代が100人の狩猟採集生活を送る集団だったなら、振り込め詐欺にひっからない人は生き残っていないだろう。」

 

本書は章立てになっていないが、章立てにすると、次のような構成を取っている。

はじめに

第1章 “よそ者嫌い”の進化心理学

     ある本能は尊重し、ある本能は調整する

第2章 振り込め詐欺にひっかかる人が一万年前の世界では生き延びる理由

     「認知バイアス」の「100人程度の集団での狩猟採集生活」における適用的意味

第3章 自分は何者なのか、心にぽっかり空いた穴

     数十年前から変化していない現代人の脳と利己的遺伝子説

第4章 なぜ  は“キキ―ッ”で、   は“ブーバー”なのか?

     動物行動学からの答え

第5章 苦しいとき、動物行動学の視点から考えたこと

     「『耐える』という本能は、生きることの誇るべき一部」という知見

第6章 脳という物体からなぜ意識という非物体が生じるのか

    「認知世界は種によって異なる」という動物行動学の基本理論から考える

 

個人的には第4章以下の内容は大変興味深かった。

・これまでの学術的見解では、擬態語が示す内容は、その対象が発する音そのものには直接には関係しないとされてきたが、本当にそうだろうかと疑問を呈した上で、著者は「擬態語は、その擬態語が示す外界の変化が起こったときに発生する音を出発点として、それに修正が加えられてできた言葉である」と定義し、擬態語の核心は、「外界からの刺激を受けとり、外界の状態についての情報を得る」という脳の根本的な特性にあり、その特性によって音刺激から脳内に生み出された外界変化についての情報であると述べる。例として著者は“グラッ”“テキパキ”“ドキドキ”などを挙げるが、確かにそんな気がする。

・著者は“物体”や“時間”だけでなく“意識”も脳内の神経ネットワークが生みだしている自然現象としてのイメージと考えている。イタリア出身の精神科医ジュリオ・トノーニの統合情報理論(質的に異なった十分に多くの情報が十分に統合されるとき意識は生じるとする仮説)のすばらしさを痛感しているとしているので、著者の見解とこの仮説との関係をもう少しわかりやすく説明してくれているとありがたかった。

・第1章と第3章は著者の個人的な雑感がまじりあっているような気がする。文体というか文章の雰囲気も他の章とも違うような気がする。恐らく書いているときの気分が全然違っていたのではないだろうか。私の個人的な趣味からすると、第4章から書き始めて、第5、第6章と続けて、第1章と第3章を合体させ、最後に第2章で締めくくるというような構成もあり得るように思います。でも、門外漢の私が、勝手なことを言っても仕方ないですね。単なる一読者の一意見です。