人権研究1 表現の自由 高橋和之

2022年12月25日初版第1刷発行

 

序論

第1章 表現の自由の基層理論

 第1節 一般的理論枠組           

 第2節 表現の諸類型とその規制の現状分析

 第3節 集会および集団示威行進の自由

 第4節 結社の自由

第2章 マスメディアの成立と表現の自由

 第1節 総説

 第2節 報道の自由

 第3節 アクセス権論

 第4節 放送の自由

第3章 インターネットと表現の自由

 第1節 インターネットの憲法上の地位

 第2節 インターネットにおけるプロバイダーの役割

 第3節 インターネット上の「表現の自由」の法律による規制

 第4節 インターネットとデモクラシーの将来

 

はしがきを読むと、本書では大きく3つの課題を遂行した、第1は国民の「知る権利」の見直しである、積極的に「表現する主体」を保障することこそが表現の自由を保障する根拠

であったはずであり、そこに立ち戻った憲法解釈論の必要性を一つの試論として提示した、第2は著作権との関係である、憲法学的視点から見ると著作権法のどの点に議論すべき問題があるのかの一応の見通しを述べた、第3はインターネット時代を迎えた現代における表現の自由のあるべき姿を描くことは喫緊の課題となっており出来る限りの問題提起をしてみた、というものである。

1点目は、表現する自由と表現を受け取る自由は別個の人権であると理解するのがよいとの指摘に象徴的に現れているように思う。憲法21ではなく憲法13条により根拠づける可能性を示唆する。2点目は必ずしも十分であるとは言えないような気がする。第3章第4節では「1アメリカの熟議民主政論」を取り上げ集団分極化論が問題となるとするサンスティン教授の議論を紹介しつつ、「2 日本国憲法における熟議民主政とインターネットによる表現の自由」では、国会におけるデリバレーション、公共言論空間におけるデリバレーション、インターネットの危機の3項を挙げる。最後のインターネットの危機では特にフェイクニュースの拡散が公共言論空間の正常な機能を阻害する危険と声なき声の有声化(言ってはならないことは言わない、のタガが外れることの危険性)を挙げている。とりわけ後者は興味深い視点を提供するものだと思う。

最後に個人的に興味を持っていたのが平成29年1月31日最高裁判決への高橋教授の受け止め方だったのだが、やはり功利主義的議論を最高裁が展開しているのか正確に判断できなかったというコメントは興味深かった。また法律で検索結果の削除を命じることへの審査基準は通常審査が基本であり、目的の重要性と手段の必要最小限性を審査することになろうとの見解はなるほどと思った(最高裁のような安易な総合衡量による判断は許されないとお考えのようだ)。

 

全部が精読できたわけではない。面白そうな箇所を拾い読みした程度で感想を述べることは不遜かもしれないが、ざっと目を通したことへのメモとして残したい。