2021年4月
表紙「すべては『公益』のために。強欲な経済を否定しみなが富む社会をつくる。座右の書であった『論語』とビジネスを結び付け、倫理的な経済のあり方を追求し人生を捧げた渋沢。500の企業、600の社会事業にかかわり近代日本の礎を築いた彼の共和的かつ先進的な行動原理をひもとく。」」
第1話 高い志が行動原理を培う
「論語と算盤」というフレーズは二松学舎大学を創立し大正天皇の侍講として活躍した三島毅。
志を立て、天命を知るまで孔子は35年かかった。立志とは、自分が持つ大きな可能性から進む道を見つけていくこと、天命を知るとは、自分にできること、できないことが見えてきて、できることのなかから道を決めていくこと。渋沢は政界ではなく商工業の発展を図ることこそ自分が進むべき道が分かったと語ったとき、天命を知ったといえる。
志を実現するためには、自ら箸を取れ、と渋沢は言う。ご馳走の懇談をつくったうえにそれを口に運んでやるほど先輩や世の中はヒマではない、という。
逆境も自分の本分、天に与えられた自分の役割と捉え、たとえ逆境であってもそれを受け入れ自分が果たすべきことを果たしていけばいい。
人の価値は志に近づこうとする過程にこそある。成功は人として為すべきことを果たした結果生まれるカスに過ぎない以上、気にする必要など全くない。
第2話 「信用」で経済を回せ
人が他人からの信用を築くためには一人一人が道徳を身につけ人柄を高めていくしかない、人と人とが信頼関係を築くためには誰もが納得できる常識をつくる以外にない、現実の中で経験から知恵や道徳を学ぶ心がけを忘れてはならない。
一個人の生き方においては結果よりも過程に価値があるが、経営者や政治家といった影響力を広範囲に及ぼす人の生き方としては過程より結果を重視せざるを得ない。
第3話 「合本主義」というヴィジョン
資本主義と合本主義の違いは公益を追求するか否かの違いである。
アメリカもリーマンショック後、株主至上主義を脱却し、合本主義への転換を図っている。さりとて敵と争って必ず勝ってみせるという気概なくして決して成長も進歩もない。みなでヒト、モノ、カネ、知恵を持ち寄って事業を行い、その成果をみなで分かち合い、みなで豊かになる、これが渋沢の合本主義である。
第4話 対極にあるものを両立させる
『論語』は「士魂」も「商才」も養える。「士魂」にも「商才」にもその中核には「信用」がある。論語と算盤にはそれぞれ長所も短所もあるが、これを巧みに共存させることができたのは高い志を渋沢が持っていたからである。
『書経』には
寛容でありながら、厳しい一面がある。
柔和でありながら、芯が通っている。
慎重でありながら、ものごとの処理が機敏。
有能でありながら、相手を見下さない。
従順でありながら、意志が強い。
直情でありながら、心は温かい。
大まかでありながら、筋は通す。
決断力に富みながら、思慮深い。
行動力がありながら、善悪のケジメはわきまえている。
(寛にして栗(りつ)、柔にして立、愿(げん)にして恭、乱にして敬、擾(じょう)にして毅、直にして温、簡にして簾、剛にして塞(さい)、彊(きょう)にして義)
多様性が求められる現代こそ、『論語と算盤』は21世紀を生きていくために読むべき本であるといえるかもしれない。