プーチンの野望 佐藤優

202266日初版発行

 

 プーチンのマイナスだけでなく、プラスの面にも光を浴びせて、プーチンの全体像を描こうとする、佐藤氏ならではの見事な分析だと思う。

 

表紙「『残虐なロシア』『悲劇のウクライナ』だけでは見えない真実― 権力者たちの内在論理をつかみ取れ!」、裏表紙「『死神がやってきた』プーチンとの最初の出会い インテリジェンス(諜報)の世界で、お人好しは生き残っていくことができない。だからインテリジェンス・オフィサー(諜報機関員)は、職業的におのずと陰険さが身につく。ただし、プーチンのように、陰険さが後光を発するほど強い例は珍しい。『プレジデントホテル』で死神の姿を見たときから、私のプーチンウォッチングが始まった。(本文より)」

 

第1章 仮面のプーチン

    「56年宣言の有効性を認めると約束したのは、プーチンが初めて」

    「エリツィンは、新聞を読まず、テレビを観なかった。自分を非難する不愉快な情報を知りたくなかったからだ」(トランプみたいだなあと思ってしまった)

 

第2章 プーチン 独裁者への系譜

    「プーチンKGB第一総局の出身だ。プーチンの政治家としての行動様式には、インテリジェンス・オフィサーがもついくつかの特徴がある」「プーチンは真剣に考えている。そして、発言するときはプーチンはすでに基本方針を決めている。自分が何を考えているかがわかるようにシグナルを出す」

    「プーチンから学ぶ具体的な五つの流儀」

    「一、タイミングを待つ」「二、人間関係を大切にする」「三、サードパーティ(第三者)・ルールを守る」「四、無意味な発言をしない」「五、天命を信じる」

 

第3章 20独裁政権構想とユーラシア主義

    「『ロシアで政局を見るコツは、男と男の愛と嫉妬である』ということに、ある時期、私は気づいた」

 

第4章 北方領土問題

    「19931013日、エリツィン大統領が細川護熙総理と署名したのが東京宣言」

   「207月のロシア憲法改正によって、ロシアが1956年の日ソ共同宣言で約束した歯舞群島色丹島の日本への引き渡しは可能性がなくなった、とする有識者やマスメディア関係者の解釈は間違っている」「日ソ共同宣言第9条後段では、平和条約締結後にソ連が日本に歯舞群島色丹島を引き渡すことが明記されている」

 

第5章 クリミア併合

第6章 ウクライナ侵攻

    「ウクライナ戦争が始まって以降、オレクシー・アレストーヴィッチという大統領府長官顧問が記者会見に毎日出てくる。アレストーヴィッチはジョージア(旧称・グルジア)生まれのウクライナ人で、キーウ国立大学を卒業し、俳優になった。またカトリック

の高等教育機関で神学を学んだ。その後、ウクライナ軍の諜報部門で勤務した。ゼレンスキーの側近のほとんどが、ドラマ『国民の僕』に出てきたスタッフによって固められている」

    「戦争を引き起こした原因は、アメリカとNATOにあるというミアシャイマー教授(シカゴ大学)の指摘に真摯に耳を傾けるべきだと思う」

    「20224月に至って、ロシアとドイツのン関係が急激に悪化」「引き金を引いたのは、ドイツのシュルツ首相だ。・・『EU並びにNATOにおけるパートナーと共にわれわれは、この戦争でロシアが勝ってはならないとの見解で完全に一致している』とシュルツは述べた。・・(これが)西側諸国の目標ならば、当面、停戦は不可能になる」

    「戦争が始まった時点で1ドル=80ルーブル、開戦から10日ほど過ぎた37日には1ドル=150ルーブル前後まで通貨の価値は下落した。ところが本稿執筆中のレートは、1ドル=6650ルーブルだ(202257日現在)。戦争が始まる前よりも、開戦2か月後のほうがルーブルの価値は高まっているのだ」

 

終章 平和への道程

 

 

 ロシアを擁護する気は全くないが、さりとてロシアだけが悪いという片面的な見方をするだけでは全体像を正しくとらえたことにはならない、全体像を正視眼で見て、その上で、「平和のための闘う言論」を起こせ、というのが佐藤氏の言いたいことのように思われる。

 確かに、どちらか一方だけが悪いという前提に立ってしまうと、解決できるものも、解決できなくなってしまう。さりとて譲歩すれば、ロシアはつけ上がってくるに決まっている。そんな難しい状況下でどんな匙加減でどういう解決の道があるのだろうか。政治家の責任は重い。が、政治家だけの責任にしてもいけない。大勢の人がリアルタイムで今何が起きているのか、なぜ起きたのかを注視し、その時々で出来ることをやっていくしかないように思う。