プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争 山田敏弘

2022年4月20日第1刷発行

 

帯封「『情報の世界大戦』はすでに始まっている! ウクライナ侵攻 米ロ水面下のスパイ戦 AIと人海戦術 『14億総スパイ化』計画」「ハッキング、フェイクニュースビッグデータ、デジタル人民元… ・側近も元スパイばかり、プーチン政権のアキレス腱 ・プーチンを追い詰めた、西洋諸国の『情報同盟』 ・サイバー大国ロシアはなぜウクライナで失敗したのか ・習近平が中国を14億総スパイ国家に変えた ・原子力技術からジュース缶の塗装技術まで、何でも盗む中国 ・海底ケーブルから情報を抜き取る米中 ・トランプ大統領を誕生させたロシア発のフェイクニュース ・日本にいま必要な本格的『サイバー軍』ほか」

表紙裏「ロシアによるウクライナ侵攻とと共に注目が集まったサイバー世界の戦争。そしてにわかに高まる台湾海峡の危機。ロシアと中国というスパイ大国が、アメリカや日本など西側諸国に仕掛けた情報戦争の内幕をスパイ取材の第一人者が解き明かす。」

 

第1章 プーチンの戦争とサイバー戦

第2章 中国は技術を盗んで大国になった

第3章 デジタル・シルクロードと米中覇権

第4章 中国に騙されたトランプ

第5章 アメリカファーストから「同盟強化」へ

第6章 日本はサイバー軍を作れ

 

中国人民解放軍は戦略支援部隊(SSF)を新たに創設。総参謀部にあるサイバー部隊もそこに組み込まれ、サイバースパイ工作からプロパガンダ、情報工作、破壊工作まで、中国のサイバー戦略を包括的に取りまとめることになった。SSFの中でも特にサイバー攻撃に特化している組織は、サイバー・コー(サイバー部隊)と呼ばれ、その人的規模はアメリカをも凌駕すると言われている。中国では、軍のサイバー兵士が7万人ほどで、民間から協力しているハッカーらは15万人ほどになると言われてきた。一説には数十万から数百万人規模になっているとの見方もある。そうした巨大規模の集団が、情報機関であるMSSなどとも緊密に連携しながらスパイ活動に従事している(70~71p)。

・米国家防諜安全保障センター(NCSC)元高官のウィリアム・エバニーナは、2021年8月に上院情報特別委員会で「アメリカの成人の80%は個人情報のすべてが中国共産党に盗まれている」「残り20%も、一部の個人情報が中国に盗まれている」と語っている。以降、中国による個人情報の盗み出しの多数の事例が紹介されている(71p)

・一般の武器などの場合には、輸出管理に関する国際的な申し合わせであるワッセナー・アレンジメント、生物兵器に関しては開発・生産などを規制する生物兵器禁止条約がある。同様に人の生命や財産に影響を及ぼすサイバー攻撃にも、何らかの規制または枠組みが必要ではないかとの議論が何年も前から続けられている。インターネット上の行動規範、つまり、ルールを決める議論は、国連で続けられてきた。2004年に国連はサイバーセキュリティ政府専門家会合(GGE)を設置し、国際法を当てはめたサイバー空間の機関を作るべく議論を重ねてきた。しかし、具体的な規約内容になると、アメリカと中国・ロシアなどの間で主導権争いが繰り広げられている。そして現在まで、世界が何ら化の形で合意できる兆しはない(81p)

・中国は国家安全法11条で「中華人民共和国の国民、軍を含む全ての国家機関、政党、団体、企業等の社会組織は、いずれも国家の安全維持の責任と義務を有する」としている。国民や組織は様々な側面で、当局に全面的に協力しなければならないと明記された(90~91p)。続く2016年には「サイバーセキュリティ法」が制定。28条に「ネットワーク事業者は治安当局に技術的なサポートと支援を提供しなければならない」と規定。中国のIT企業のスパイ化である。とどめは2017年制定の国家情報法。7条で「個人や組織は政府の情報活動に協力しなければならない」と定める。14条では「情報機関が国民に協力を要請できる」とも(89~91p)

・2015年、アメリカの政府職員の人事情報を扱う連邦人事管理局から、CAI職員などを含む連邦職員2210万人分の個人情報が中国政府系ハッカーによって盗まれた(95p)

エチオピアの首都アディスアベバにあるAU(アフリカ連合)本部の建設を中国が友好の証として担当。本部ビルの通信インフラには、ファーウェイ製品が導入されたが、ここにスパイプログラムが設置された。毎晩12時になると、上海にあるサーバーに、AUの政策や協議の記録など内部情報が転送されていた(103p)

・アリババの規模の大きさは我々の想像を絶する。2018年には中国のモバイル決済の総額は約4709兆円に上る。アリペイのスマホ決済額のでの中国国内シェアは54%(中国大手調査会社iResearchによる。116~117p)

・5Gの通信機器などを製造できるメーカーがアメリカには存在しない。ファーウェイのライバルになるのは、エリクソンスウェーデン)、ノキアフィンランド)、サムスン(韓国)などで、現在のアメリカは通信機器に関しては最先端国家ではない(133p)

・「ロシア・ゲート」事件についても詳しく書かれている。多くのアメリカ民主党関係者がフィッシングメールを受け取った。FBI民主党に連絡したが、民主党はこれを無視。そのため100人以上がハッキングの被害にあう。民主党内の文書や5万通のメールが流出。この攻撃は「ザ・デュークス」と呼ばれるハッカー集団により行われた。その背後にはFSBロシア連邦保安庁)、GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)がいて、ロシアのハッカーたちにサイバー攻撃を依頼している(欧州外交評議会の報告)。民主党はセキュリティ企業に調査依頼し、ロシアによるものと報告を受けた(145~147p)。

・ロシア・ゲート後、米サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)のトップだったクリス・クレブス局長に話を聞くと、選挙の正当性を確保するのに必要な措置についてたどり着いた結論は「投票の記録を紙で残すこと」。マシンがサイバー攻撃などに遭って異常な動きをしたとしても、紙にも戻れば再集計ができる。この対策は成功。クレブスのアドバイスで2020年の大統領選挙ではすべての投票のうち95%で紙による記録が残された。2016年は80%ほどで、クレブスの指摘がなければ更に減っていた可能性もあった(183~184p)

 

 今、世界は、サイバー空間で、何が起きているのか。アメリカ、中国、ロシアというサイバー大国に、日本も含めて、間違いなく蹂躙されているに違いない。我が身は我が身で守るしかないとはいえ、ようやくサイバー庁がスタートしただけの日本。サイバーセキュリティーをはじめとして日本の企業の最先端技術を是非ともこういう場面で活用してほしいものだ。