もういちどベートーヴェン 中山七里

2020年4月21日第1刷発行

 

裏表紙「司法試験をトップで合格した司法修習生・岬洋介。同じく修習生の天生はひょんなことから彼と親しくなるが、クラシック音楽を避ける岬が実はピアノの天才であると知り、彼の正体に疑問を抱く。そんな折、二人は修習の一環でとある殺人事件の取り調べに立ち会う。凶器から検出された指紋は被害者の妻のもののみで、犯人は彼女しかいないと思われた。しかし岬は無罪の可能性を主張し…。」

 

エリート検察官の息子で、司法試験にトップ合格。司法修習が始まり、検察修習中に絵本作家の殺害事件が起きる。凶器の包丁には絵本画家の妻の指紋しか残っていないことから犯人は妻以外に考えられない状況にありながら、妻は犯行を否定する。またペンネームを使っていた絵本作家が最後の作品で本名を使ったところに引っかかりを持ち、なぜ本名を使ったのかという謎解きを修習生の立場を超えて追究していく。岬は絵本作家の殺人事件で指紋の謎を解くために県警にあるお願いをする。修習生で友人となった天生はそんな岬の独断行為をハラハラしながら見守っていく。ところで、天生はかつて小学校時代にピアノを習い、両親を期待を一身にうけて地域のコンクールで一位を取るものの、上には上がいること、ピアノで生きていくためにはピアノの神さまに愛されるほどの才能がなければならないが自分にはそんな才能がないことを思い知らされ、ピアノを諦めて司法試験にチャレンジし、何回か落ちてようやく合格する。そんな天生がクラシックを避けるようにしていた岬に悪戯心でクラシックのコンサートに半ば騙して連れて行く。いつもはひょうひょうとしていた岬だったがこの時だけは感情を荒げてコンサート会場を後にする。ところがそんな岬がいつしか修習に身が入らない態度に変わり、それを不安に思った天生が岬の跡をつけてみると、なんと岬はピアノの猛練習に励む姿を見つけてしまう。しかも漏れてくる音を聞くと、本物のピアノの音を紡ぎ出している。何と岬は有名なピアニストの登竜門であるコンクールの予選に出場するために練習していたことを知る。二足の草鞋を履ける岬に嫉妬する天生だが、予選で一位となった岬のピアノが本物であることを知り、本選に出場するとなると、修習の専念義務に違反して修習生の身分が危うくなるのではないかと心配する。岬が出場する本選には検察担当教官や天生、それ以外の修習生の仲間も鑑賞に参加し、岬のピアノの腕前に驚かされる。それと同時並行で岬は妻の絵本画家に面会し、絵本作家が今回はペンネームでなく本名を使った理由を尋ねる。妻は何か隠している態度を岬に示して面会を途中で終わらせてしまう。そして本選で見事優勝するや、県警にお願いしたことが岬に伝えられ見事に包丁に妻の指紋しか残っていなかった謎を解き明かし、別人の犯行証拠を突き止めるとともに、ペンネームを使わずに本名を使った絵本作家の動機を見事に推理して、絵本作家が自分の本当の姿をカミングアウトしようとしたこと、それを食い止めようとして事件に巻き込まれたこと、妻はそのことを知っていたけれども絵本作家のために本当のことは言わなかったことなどの種明かしをし、何と身近なところに真犯人がいることを突き止めてしまう。何ともシャーロックホームズさながらの推理力を発揮し、かたや天才ピアニストでもあり、そして修習を途中で放棄してピアノの世界に飛び込んでいってしまう岬を、修習生たちが羨望のまなざしで見つめてこのドラマは終わっていく。

推理小説としての構成力、音楽を言葉にして圧倒的な迫力を醸し出す筆力、最後のドンデン返しを含め、エンターテイメントとしてかなり優れた作品だと思う。