斜陽 太宰治

2008年2月1日初版第1刷 2009年3月15日第6刷

 

貴族だった母とかず子は、戦後、叔父が紹介する山荘に引っ越す。母は体調を崩すが、名医のおかげで回復する。「神さまが私を一度お殺しになった。昨日までの私とは違う私にしてよみがえらせてくださったのだわ」という母の言葉が印象的だ。

小さな火事を起こしたかず子に村人は「貴族さまだが何さまだか知らないけど、私は前からあんたたちのままごと遊びみたいな暮らしをハラハラしながら見ていたんです 今まで火事を起こさなかったのが不思議なくらいだ 今夜の風が強かったらこの村全部が燃えていたんですよ」と言われてしまう。その後畑仕事に精を出すかず子にある時母は、叔父から、弟の直治が生きているのが分かったが麻薬中毒になっていること、お金がなくなってしまったから、かず子の嫁入り先を探すか、奉公の家を探すか、どちらかになさいと言われた話を伝える。かず子は母から酷い仕打ちを受けたと思い言い合いになる。「行く所がある」というのはどこかと母から聞かれてかず子は「他の生き物には絶対になくて人間だけにあるものってなんだと思う」と尋ね、自ら「それはね、ひめごとというものよ」と答える。

その後、弟の直治が帰ってきた。母は体調を崩し寝たきりの生活となり、弟は師と仰ぐ小説家の上原の家に入りびたりとなり帰ってこない。ある時弟の部屋で昔の日記を手にし、6年前のことを思い出す。直治のためにかず子は苦労してお金を工面しそのお金を上原の家に届けていたが、ある時、上原を訪ねた後2人でお酒を飲んだ後に帰り道で上原からキスをされる。かず子に「ひめごと」ができてしまった。母の体調は戻らず結核で弱っていく。ある時かず子はローザ・ルクセンブルグ『経済学入門』を読み、「人間は恋と革命のために生まれてきたのだ」ということを確信したいと思うようになる。母は結局かず子と直治に看取られて亡くなり、直治と気まずい生活が始まる。

かず子は上原に会いに行き、上原の家を見つけるが玄関先で妻と娘と出会う。が、かず子は「すきこがれる、恋しいのだからしょうがない」「少しも自分をやましいとは思わぬ 人間は恋と革命のために生まれてきたのだから」と思いながら、上原と再会する。上原から「今でも僕を好きなのかい」「僕の赤ちゃんが欲しいのかい」と言われ再びキスをされ、涙を落とすかず子。その夜、二人は結ばれるが、翌朝、直治は自殺した。直治の遺書には、直治は上原の妻を恋しくこがれて狂うような気持ちになった、苦しい恋をしてしまった、諦めようとめちゃくちゃに色んな女と遊び狂ったこと、そして「僕は貴族です」と綴られていた。

かず子は、上原の子どもを妊娠し、一人でお腹の子どもを産み育てることを決意する。胸のうちに「恋しい人の子を産み育てることが私の道徳革命の完成なんです」「道徳の過渡期の犠牲者 あなたも私もきっとそれなのでございましょう 今の世の中で一番美しいのは犠牲者です」という声を挙げながら。

 

太宰は、貴族が没落していく中、貴族ではなく逞しい生き方を選択したかず子は生きて子を宿し、貴族として生きようとした直治は死して貴族として死んでいったという対比をしようと思ったのだろうか。いずれも犠牲者であり、その犠牲者こそが今の世の中で一番美しいと語る太宰の美学というものは現代の人々が読むと果たしてどのように読むのが通常なのだろうか。今の人々とはあまりに感性が違い過ぎているような気がするのは私だけなのだろうか。