桜の園 チェーホフ 神西清訳

昭和42年8月30日発行 平成2年8月20日47刷改版 平成19年5月20日67刷

 

帯封「急変してゆく現実を理解せず華やかな昔の夢におぼれたため、先祖代々の土地を手放さざるを得なくなった、夕映えのごとく消えゆく貴族階級の哀愁を描いて、演劇における新生面の頂点を示す『桜の園』」

 

第一幕

 女主人ラネーフスカヤ夫人は6年前に夫を亡くし、直後に息子グリーシャを川で亡くす。娘アーニャと家庭教師シャルロッタは夫人を貴族の土地「桜の園」に連れ戻し、一行は夫人を出迎える。商人ロパーヒンは桜の園が競売に出されるので一部を別荘地にして収入を得、土地を維持する提案を行う。借金で首が回らない地主ピーシチクから240ルーブルを貸してほしいと頼まれた夫人はガーエフに頼んでその金を出す。

 屋敷に大学生トロフィーモフが来るがすっかりと老け込み、夫人は変貌ぶりに驚き、グリーシャのことを思い出し、涙を流す。

 

第二幕

 家庭教師シャルロッタはドイツ人の奥さんに引き取られて勉強して家庭教師になった過去を語る。ロパーヒンは土地を別荘地として出すのに賛成かどうかの判断を夫人に迫る。別荘客の俗悪なことを嫌う夫人とガーエフは、伯母から幾らか送ってもらえる約束をしたのでそれで解決したい。夫人はロパーヒンの暮らしを不趣味と言い、養女ワーリャとの結婚を勧める。ロパーヒンは毎朝4時すぎに起き朝から晩まで働き、まわりには正直なまともな人間がほとんどいないという。浮浪人が登場すると夫人は浮浪人に金貨を恵む。

 トロフィーモフとアーニャの二人だけがいる場面で、トロフィーモフは不断の勤労で過去を断ち切り現在を生きるといい、アーニャは賛同し、屋敷を手放して新しい人生を始める決意をする。

 

第三幕

 桜の園では舞踏会が開かれる。競売に出かけたガーエフの帰りが遅いことを夫人はずっと心配するも、毎日電報を届けるパリの恋人に戻りたいと言い出す。夫人に真実をまともに見るようにというトロフィーモフは夫人から子ども扱いされ怒って部屋を出ると階段から転落。老僕フィールスは以前に比べ、今では舞踏会に駅長や郵便の役人を招くのも困難となった現状を嘆く。ロパーヒンとガーエフが競売から戻り、ロパーヒンは自分が高額で桜の園を落札した、桜の園に斧をくらわせて別荘を建てるという。夫人は泣き出し、アーニャはここを出て新しい庭を作ろうという。

 

第四幕

 窓のカーテンも壁の画もなくなり、ガーエフが登場。ガーエフは六千ルーブルで銀行の職に就く。夫人はパリで伯母が送ってくれた金で暮らす。皆、名残惜しみつつ、汽車の時刻が迫り出ていく。馬車が出ていく音が聞こえ、ひっそりとする静けさの中で、木を切る斧のにぶ音がさびしく物悲しくひびきわたる

 

太宰治の『斜陽』が本作にヒントを得て書かれたとのことだったので、読んでみた。ただ戯曲は小説と違って筋を追うのが難しい。会話の中にある言葉をヒントに読み進めるしかないからだろう。

 要するに新しい時代がやってきて、貴族が取り残され廃れていき、若い人たちは新しい時代に希望を抱き、現実に根を張って勤労に精を出す商人が金持ちとなり人間くさい。そんな人々を描く作品のようだ。