昭和史入門《上》 保阪正康

2020年11月20日発行

 

目次

まえがき(序にかえて)

第1章 昭和という時代の俯瞰図

第2章 軍事主導体制の崩壊 昭和前期

第3章 再生日本と新生日本の対立 昭和中期

 

著者なりに昭和史を学ぶ上での視点を提示し、わかりやすく解説した本だと思う。深みがあるとは思わないが、左右のどちらかに傾くことなく冷静に分析しようとする姿勢には共感が持てる。ただ大づかみであるため突っ込み不足感が否めないというのが正直な感想。

以下、確かにそう言えるかもね、と思ったところを列記する。

・昭和史を振り返る際に必要な3つの姿勢とは、①あの時代にもし自分が生きていたらどのような生き方をしただろうかという想像力、②あの時代の過ちや錯誤が日本史総体、あるいは日本人の国民性に敷衍できるわけではないとの歴史観、③私たちは天空の一角に鎮座して昭和史をジャッジする権利をもっているわけではないとの謙虚さ。

・昭和史から学ぶべき4つのこと ①機械文明の進歩による価値観の変化②思想が日本社会の軸になりえないこと③世界戦争を抑止する政治技術とは何か④市民的権利の確立とさらなる拡大 ②について著者は昭和史の重要な局面にあって常に折折の政府の選択が感情的であるとの感がすると述べる。

・著者は岩波新書の『昭和史』に批判的である。人間が顔を見せない昭和史という亀井勝一郎の批判に与する訳ではないと言いつつ、日本軍国主義を主語とする歴史分析の手法には手厳しい。

・昭和史には、①アメリカの影と②昭和天皇の存在という2つの芯があるというのは著者独自の視点ではなかろうか。これには賛否両論があり得るだろうと思う。

・昭和前期の第1期の最後に昭和7年の5・15事件をあげ政党政治が崩壊し、暴力と謀略が現実をあっさり変えた、第2期は日本主義的な突出した社会空間と位置づけ、日本国体観念への自覚という流れ、テロ、クーデターなどの暴力事件の系譜、政治の流れが一気に軍事主導体制に進んでいったという3つの流れがあるという。その上で第3期に入り、太平洋戦争に突入し敗戦という流れを押さえている。この戦争の原因として①日中戦争の延長として起きた②政治指導者はほとんどといっていいほど関わっていない③戦争目的は自存自衛のみでそれ以外の目的は掲げていない④軍事指導者は明確な戦略を持っていない(つまり戦争終結構想を持っていない)⑤軍事指導者のみが前面に出た戦争であった、の5点を挙げる。

・昭和中期は2度と戦争の出来ない国家という前期と西側陣営の橋頭保という後期に分けられる。

中でも昭和天皇マッカーサーの会見が合計11回行われており、1回目のみしか公開されていないが、その内容からある程度の内容が窺え、この二人の関係こそが昭和中期の政治を貫く骨格であるとしている。東京裁判については分量制限もあるせいだろうが、極めて表面的なことしか記述していない。

 

というような感じで、昭和中期までを、平易な言葉で、わかりやすく解説してくれている。