春燈《中》 宮尾登美子

1992年9月10日発行

 

綾子と倉庫で2人生活を始めた喜和はうどんやを始めた。綾子を岩伍の下に戻すため、学校の先生を巻き込んで岩伍と喜和は話をつけ、荷物を半分ずつ置くことにし、綾子は岩伍に家に帰ると、岩伍はオーバーを買いに行こうと言って町に出て、おしるこを父親らと食べて帰った。難破船から救出されたという感覚が綾子には残った。中学受験に失敗した綾子だったが、11倍の倍率だった付属小学校の受験は合格した。第一高女に合格した級友から、落ちたのは職業のせいだと聞いた綾子は父親にそのことで詰ると、父親から大声で職業に上下貴賤の別はないと叱られた。母親から友だちが好きになってきた綾子だが、岩伍から照をお母さんと呼び、今後喜和の家に行ってはならぬと言われる。岩伍の下で同居していた譲と綾子が喧嘩した。岩伍は兄弟姉妹仲良くせよというが、綾子は譲を使用人と思い下に見ていた。お花の稽古に通い始めた綾子はそこで助手の巴と会い、巴が音楽や小説などに詳しく知性に溢れた姿にすっかり魅入られた。お妾と付き合うなと兄嫁から言われたが反抗した。担任の先生の家庭訪問で家の看板が見られた恥かしさ、先生で唯一に味方と思っていた先生も家の看板を見られた恥かしさを感じるたびに、思春期の綾子の心が揺れ動いた。遠足で友だちが家の前を通るかもしれないと考えると、遠足の時は必ず休んだ。教育実習の教生たちが来ると友だちのように楽しい思い出を刻んだが、次の教生とはそりが合わなかった。糾弾の手紙をクラスメートを煽動して書かせて教生に提出したことが不祥事扱いとされ、担任の先生から説諭された。それを別の先生たちは綾子の家の職業と結び付けて説教するものだから綾子は到底納得し難い。この屈辱を生涯忘れまいと誓った。3年になり師範学校の規則が厳しく監獄のような生活に耐えられないと思った綾子は高坂女学の編入試験を受けた。面接では糾弾した教生の父親が担当だったが、成績もよく無事合格した。勉強も楽しくなり1学期の通知表も62人中1番だった。岩伍や照に喜んでもらえると思いきや、お花の稽古をサボっていることを咎められ、女子のよう出来るのは鼻にかけるきに困ると叱責された。きっと照の長男譲の成績が良くなかったせいだろうと思った綾子は随分大人になったものだと思う。