春燈《上》 宮尾登美子

1992年9月10日発行

 

「櫂」に続く自叙伝的小説。

主人公の綾子、育ての母喜和、実父岩伍が織りなす親子模様が描かれている。学校の先生が家庭訪問の際に家の看板を見上げた様子を見て、綾子が高知の芸妓紹介業を営む家で、多感な少女期を送っているのだということが分かる構成になっている。岩伍が山の中に家を建て喜和と綾子がそこに住む。2里離れた学校まで歩いて通う。5年生から裁縫が科目に加わるが、初めて全甲でなく裁縫だけ乙の成績を貰い、我儘し放題に育てられた綾子に厳しく躾けするようにと先生から言われる。放火騒ぎが起き、喜和も警察で長期間調べられ、初めて離れて暮らす経験をした。犯人は不明のまま事件は終結した。6年生になり、喜和と岩伍は離婚した。修学旅行先で見知らぬおばさんがココアをご馳走してくれたり面倒を見てくれた話しを喜和にすると喜和は血の気を引いた。綾子はこの時は生みの親とは気づかなかった。後に巴吉太夫だと知る。兄健太郎が綾子を芸者に売ろうとかと言っているという話を兄嫁から聞かされて綾子はたとえようもない恐怖を覚えた。遂に喜和と岩伍が別れるので父親の家に戻るように言われた綾子だったが、綾子は喜和と一緒にいると言って頑として聞かない。岩伍は綾子を連れて本当の母でないことを打ち明けるのだが、綾子はとうにそんなことは知っていると言い、綾子は喜和と暮らすことになる。