孔子《上》 井上靖

2006年11月20日発行

 

孔子の言行を目の当たりにできた弟子の一人が、孔子の死後33年という歳月が経過した後に綴ったとの想定で描かれた本作。「天命」という言葉を考察し、孔子という人物の人となりを著者なりに考察している。

この弟子は、孔子の次の詞が好きだという。天は自分にこの世の紊れを直す使命と、それを果し得る能力とを授けて下さっている、そうした自分に対して、桓魋(かんたい)ごときが何ができよう(天、徳を予に生せり。桓魋、それ予を如何せん)。

またこの弟子が何回も復唱したというのが次の詞。憤りを発して食を忘れ、楽しんで以て憂いを忘れ、老いのまさに至らんとするを知らず。“憤りを発して”の“憤り”は、生きてゆく人間の道に外れたことに対する怒り、“楽しんで以て”の“楽しみ”は、人間の心を安らかに、明るく、楽しくするすべてのこと。

論語は、何度も読み、時に書き写してきたが、生涯、学び続けるべき古典的良書の1冊だ。

井上靖の確か晩年の作品だったのではないかと思う。