杖下に死す《中》 北方謙三

2013年6月10日発行

 

宇津木の弟子岡田良之進にも利之は稽古をつけはじめた。帰る直前に宇津木が矢部と密談していたのも気になった。宇津木はかなりできるが正体を明かさないので弟子を取ることにした。利之に尾行が以前からついた。格之助への尾行かもしれなかった。矢部は江戸に帰った。格之助は平八郎に命じられて何か調べ物をしていた。3人の武士が格之助を襲い、懐の帳面を出せと迫った。格之助は3人の気を受けた。3人に乱れが見え立ち去った。利之は3人の跡を追った。吉野家に入っていった。吉野家は阿漕な儲け方をしていた。格之助は平八郎に言われるとおり火薬の調合を工夫し二樽作り上げた。火器の総見の際に試す機会を得た。他の砲より格之助の工夫した火薬は強力だった。平八郎は正月までに大砲の弾120発と不正の温床である回船問屋の調査をやり遂げよと命じる。利之は格之助に対し、風樹の嘆の前半「樹、静かならんと欲すれども、風やまず」と言った。それに続く、子、養わんと欲すれども、親待たずという漢詩のようになりたくないのだろうと言ったようだった。利之は櫓の音から荷を積んだ船と判断して、船一杯の米を積み吉野家に運ばれていると考えて吉野家の蔵に現に160石の米が隠されている現場を押さえた。利之の父から10両が送られてきた。大坂で気になることを全て報告しろという意味だった。老中水野忠邦実弟跡部の何かを掴むのを老中とうまくいっていない父は望んでいた。米の一部を流出させて施米より数十倍の人間を救いそれで小遣い稼ぎをする内山は利之に対して、頭の中の正義は時として悪よりも厄介だ、格之助も嫌いだし、平八郎はもっと嫌いだという。鼻持ちならない、何もしない吉田の方がまだましだとも。利之は内山に格之助の純粋さが眩しいのだろうと返した(第3章 風の樹)。

利之は岡田に、尾行されていると告げた。そう言うことで岡田から宇津木に何らか波紋が起きることを予想した。宇津木、吉田、矢部のラインで何かを探っていた。矢部が江戸に戻ると宇津木は江戸から来た武士と密に会っていた。内山は利之に大坂の深部に手を突っ込まない方が良い、得体のしれない動きがあると警告した。利之と互角の男と切先を結んだ。男も利之も怪我をした。利之の傷はお勢の所で料理人をしている仙蔵が縫った。平八郎は格之助に敵は国であり幕府だと告げた。格之助が決起するのかと尋ねるとはっきりと返事はしなかった。宇津木は格之助に平八郎を汚名の中で死なせたくない、平八郎を泊める場所にいてもらいたいと語った。仙蔵によると彦根藩の剣術師範が同じように傷を縫っていた。吉田と桝屋がお勢の店で密談をしていた。そこに利之が割り込んだ。枡屋はそれを待っていたかのようだった。利之は老中水野派か大老井伊派かとぶしつけに訊ねたが、枡屋は大坂はもっと複雑だと答えた。利之を絶えず尾行していたのは間宮林蔵だった。米だけでなく砂糖の値も上がっているとわざわざと伝えてきた。平八郎は1か月講義を終えると部屋にこもった。そして檄文を書き上げ格之助に読ませた。決起する以上命を捨てるが,大坂は救われる、見届けたら腹を切る、自分だけでは済まぬというと、格之助ももとより覚悟はできてと受けた。