百人一首 故事物語2 特選生きる心の糧 池田弥三郎

2015年4月30日初版発行

 

51かくとだにえやはいぶきのさしも草。さしも知らじな。燃ゆる思ひを 藤原実方

52明けぬればくるるものとは 知りながら、なほ恨めしき朝ぼらけかな 藤原道信

53なげきつつ ひとり寝る夜の明くる間は、いかに久しきものとかは しる 藤原道綱母

54忘れじの行末までは かたければ、今日を限りの命ともがな 藤原伊周

55滝の音は たえて久しくなりぬれど、名こそ 流れてなほ聞こえけれ 藤原公任

56あらざらむこの世のほかの 思ひ出に、今ひとたびの逢ふこともがな 和泉式部

57めぐりあひて みしや それともわかぬ間に、雲がくれにし夜半の月かな 紫式部

58有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ 人を忘れやはする 紫式部

59やすらはで寝なましものを。さ夜ふけて かたぶくまでの月を見しかな 赤染衛門

60大江山 いくのの道の遠ければ、まだふみもみず。天の橋立 和泉式部

61いにしへの奈良のみやこの 八重桜。今日 九重ににほひぬるかな 伊勢大輔

62夜をこめて 鳥のそら音ははかるとも、よに 逢坂の関は許さじ 清少納言

63今はただ思ひ絶えなむ とばかりを、人づてならでいふよしもがな 藤原道雅

64朝ぼらけ 宇治の川霧 絶え絶えに、あらはれ渡る瀬々の網代木(あじろぎ)藤原定頼

65うらみわび 乾さぬ袖だにあるものを 恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ 相模

66もろともにあはれと思へ。山桜 花よりほかに 知る人もなし 行尊大僧正

67春の夜の夢ばかりなる たまくらに かひなくたたむ名こそ惜しけれ 周防内侍

68心にもあらで うき世にながらへば こひしかるべき 夜半の月かな 三条天皇

69嵐吹く 三室の山の紅葉ばは、竜田の川の 錦なりけり 能因法師

70さびしさに 宿をたち出でて眺むれば いづこもおなじ。秋の夕暮 良暹法師

71夕されば、門田の稲葉おとづれて、あしのまろ屋に、秋風ぞ吹く 源経信

72おとにきく 高師の浜のあだ波は、かけじや 袖の濡れもこそすれ 紀伊

73高砂の尾を上の桜 咲きにけり。外山の霞 たたずもあらなむ 大江匡房(まさふさ)

74うかりける人を 初瀬の山おろし 烈しかれとは祈らぬものを 源俊頼

75契りおきしさせもが露を 命にて、あはれ 今年の秋もいぬめり 藤原基俊

76わたの原 こぎ出でて見れば、ひさかたの 雲居にまがふ 沖つ白波 藤原忠道

77瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ 崇徳天皇

78淡路島 通ふ千鳥の鳴く声に、いく夜ねざめぬ。須磨の関守 源兼昌

79秋風に たなびく雲の絶え間より、もれ出づる月の影の さやけさ 藤原顕輔

80ながからむ心もしらず。黒髪の 乱れて 今朝はものをこそ思へ 堀河

81ほととぎす 鳴きつる方を眺むれば、ただ 有明の月ぞ残れる 藤原実定

82思ひわび さても命はあるものを。うきにたへぬは 涙なりけり 道因法師

83世の中よ。道こそなけれ。思ひ入る山の奥にも、鹿ぞ鳴くなる 藤原俊成

84ながらへば またこのごろや しのばれむ。憂しとみし世ぞ今は恋しき 藤原清輔

85よもすがらもの思ふころは あけやらで、ねやのひまさへつれなかりけり 俊恵法師

86なげけとて月やは ものを思はする。かこち顔なるわが涙かな 西行法師

87むらさめの露も まだひぬ真木の葉に、霧たちのぼる 秋の夕暮れ 寂蓮法師

88難波江の葦の刈り根の ひとよゆゑ、身をつくしてや 恋ひ渡るべき 皇嘉門院別当

89玉の緒よ。絶えなば絶えね。ながらへば、しのぶることの 弱りもぞする 式子内親王

90見せばやな。雄島の海人の袖だにも、ぬれにぞぬれし色はかはらず 殷富門院大輔

91きりぎりす 鳴くや霜夜のさむしろに、衣かたしきひとりかも寝む 藤原良経

92わが袖は 潮干に見えぬ沖の石の、人こそ知らね。乾く間もなし 讃岐

93世の中は常にもがもな。渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも 源実朝

94みよし野の山の秋風 さ夜ふけて ふる里寒く 衣うつなり 藤原雅経

95おほけなく うき世の民に おほふかな。わがたつ杣(そま)に 墨染の袖 慈円大僧正

96花さそふ嵐の庭の 雪ならで、ふりゆくものは わが身なりけり 藤原公経

97来ぬ人を まつほの浦の夕凪ぎに、焼くや藻塩の身もこがれつつ 藤原定家

98風そよぐ ならの小川の夕暮れは、みそぎぞ 夏のしるしなりける 藤原家隆

99人もをし、人も恨めし。あぢきなく世を思ふゆゑに もの思ふ身は 後鳥羽天皇

100ももしきや 古き軒端のしのぶにも、なほあまりある 昔なりけり 順徳天皇

 

53、60、61は文科省推薦の三才女。

たまには、こういう和歌に触れるのも、いいもんですね。ほっとします。