ぶら~り文学の旅 村上政彦

2023年1月26日初版第1刷発行

 

裏表紙「ぶら~り 文学の旅 新型コロナウイスルが日本ばかりか世界にまで広がって、移動が制限されるようになったとき、旅がしたい、と思った人は少なくないのではないだろうか。僕もその一人だったが、幸いなことに、僕には本があった。本を読む行為は、旅をすることに似ている。知らない風景や知らない人との出会いがある。未知の何ものかとの出会いは、人の生き方を更新する。読書も旅も、人を成長させてくれる。そこでせめて、本を読むことで旅の気分をあじわっていただきたいと思って、僕が読んできた小説や詩を紹介させてもらうことにした。まずは、日本全国を旅してみよう。北海道から沖縄まで、すぐれた文学作品を取り上げたつもりだが、好みもあるので、心許ないところもある。しかし読んでおもしろくない作品はないと思う。いま獄は、海外を旅している。日本の旅が終ったら、ぜひ、ご一緒に。『はじめに』より」

 

目次

北海道・東北編

関東編

中部編

近畿編

中国・四国編

九州・沖縄編

 

・この中で最も読みたいと思ったのは原民喜の『夏の花』。自らの被爆体験を詩人でもあった原が小説として残した。著者は「文学は、見たまま、聴いたまま、感じたままを言葉によって残します」という。勿論その側面はあるだろうけれど、見えないものを見、聴こえないものを聴き、それをどのように感じて、次代に何を伝え残すのか。強いて言えば、直接には言葉に表して書いていないかもしれないけれど、読みとるべきものをきちんと読み取れる人になりたいと思う。

・詩人の川崎洋の『海があるということは』も読みたい。「いま始まる新しいいま」という詩は冒頭に「心臓から送り出された新鮮な血液は/十数秒で全身をめぐる/わたしはさっきのわたしではない/そしてあなたも/わたしたちはいつも新しい」とある。良い詩を書かれる詩人として紹介されていた。

・『山之口獏詩集』も読もう。

 

結構、知らない小説を取り上げていた。ただ多くの本を紹介しようとするあまり、内容が薄いというか、ちょっと残念な気がする。和歌山を紹介する箇所では、中上健次『岬』が取り上げられていたが、以前この小説を読んだときに、人間の業の深さにかなりの衝撃を受けた記憶がある。著者は「生の禍々しさがとぐろを巻いている」と書いているが、とてもこの程度の表現、頁数で伝え切れるものではない。